ぶら野球BACK NUMBER
球場の大クスノキ、借景の桜島!?
熊本と鹿児島を堪能した野球ぶらり旅。
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph byYasutaka Nakamizo
posted2017/04/29 11:30
全国的には「さつま揚げ」として有名な鹿児島名物「つけ揚げ」。お酒のお供に最高です!
この試合のヒーローは、菅野ではなく立岡である。
4月の夜はさすがに冷えてきたというのに、スタンドには半袖にホットパンツのピチピチの売り子の姿。ちょっとヤンキーテイストが入った美女軍団だ。ビールだけじゃなく、牛串や焼そばを大量に抱えている。どうやら球場内の飲食店不足をカバーしようと外の屋台からの出張販売のようだ。
周囲を見渡すと、店だけでなくゴミ箱もほとんどなくて、正直トイレの数も少ない。ただ、階段を下りて三塁側トイレに並んでいると左手の目の前はすぐグラウンドなので、山田哲人のユニフォームを着た女子2人組がヤクルトナインに向かって手を振っている。
なんか自由だ。
それぞれが節度を持った上で勝手にプロ野球を楽しみ、巨人の立岡宗一郎やヤクルト先発の山中浩史といった地元出身の選手に声援を送る風景。
1年前、地震の直後に「なにも出来んのが悔しい」とツイートしていた立岡は、確かにそのプレーで熊本を元気づけている。今夜ばかりは、完封したエース菅野智之ではなく、猛打賞の立岡がヒーローだろう。
男が“おっさん”になる、記念すべき第一歩。
帰り際に乗車したタクシー運転手のおっちゃんは「菅野が9時前に終わらせてくれたから夜の街に流れてくお客さん多いね。あれエースだね~。あ、私ソフトバンクファンだけどね!」と妙にハイテンション。
いつの時代も、プロ野球は明日へのガソリンだ。
翌日の昼過ぎ、熊本から鹿児島中央駅へは新幹線さくらでたったの56分。車内で矢崎良一著の『松坂世代』を読んでいたらいつの間にか到着。実際に乗るまで、ここまで近いとは知らなかった。
旅とは無知な自分と向き合う儀式でもある。狭い日常を一歩抜け出すと人は己の無力さを思い知る。たまにはその感覚を味わうのも悪くない。
最近、WBC後の原稿ラッシュで悩まされていた首痛もだいぶ良くなった。前夜は試合後に市内で簡単に食事をすますと、飲みには行かずに部屋に戻ってアロママッサージを呼んだ。
男がキャバクラよりマッサージを選んだ夜、それはおっさんへの記念すべき第一歩である。