イチ流に触れてBACK NUMBER
映画以上に劇的なシアトルでのHR。
イチローは2023年に帰ってくる!?
posted2017/04/25 11:40
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph by
Getty Images
誰もが勝手な思いをめぐらせていた。
“おそらく、これが……イチローにとってこの球場で現役最後の打席になるだろう……”
2017年4月19日、シアトル、セーフコフィールド。6点ビハインドの9回先頭でイチローが打席に向かった。
平日のデーゲームながら、先着2万人に配られたイチローの首振り人形欲しさに、前夜より1万1000人以上も増えたファンが集ったスタジアム。総勢2万7147人のファンが全員総立ちで背番号51に拍手を送っていた。
鳴り止まぬ歓声。その初球。
初対戦の右腕マーシャルが投じた93マイル(約150キロ)の真ん中高めの速球を強振すると場内には「グシャッ」という鈍い音が響いた。右翼手のハニガーはフェンスに向かい背走して行く。
「え? え? え?」
思いのほか伸びる打球に驚きを隠せないでいる日本人記者の声が確かに聞こえた。それでも低い弾道の一撃が右翼席最前列に吸い込まれる。
ボルテージは最高潮に達した。
スタジアム中が「イチローコール」に包まれる歓喜の中。
二塁ベース付近でヤンキース時代の同僚ロビンソン・カノが声をかけ、マリナーズでチームメイトだったカイル・シーガーが三塁で会釈してもイチローは表情ひとつ変えない。
歓声がいつのまにか「イチローコール」へと変わったころ、本塁を踏んだイチローは余韻を楽しむかのように歩みを緩めた。
そして、三塁ベンチ前で初めて右手を上げ感謝の意を表した。
「Thank you」
その口の動きから、ハッキリとそう言っているのがわかった。