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「やっとサッカー分かってきたな」
鄭大世に響いた憲剛からのメール。
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2017/03/31 10:30
丸くなった感がある鄭大世だが、視界にゴールマウスをとらえた瞬間、ゴールへの本能をむき出しにするのは今も変わらない。
ピッチでの欲を捨てたことで得たものは大きかった。
「プレースタイルのことでもがき苦しんだ」
2013年にドイツを離れ、韓国の水原三星に移籍しても、その迷走は続く。ただ、同年に結婚し、翌年に子供が生まれると、メンタル面では変化が出てきた。
「サッカーでうまくいかないことがあっても、家で心を落ち着かせることができた」
ゴールを決めてのし上がることがサッカー人生の全てだった貪欲なストライカーは、「ピッチで欲を捨てることができた」としみじみ振り返る。無理にシュートを打たなくなり、周りを使うようになった。そして、2015年に大きな転機が訪れる。「スーパーマッチ」と呼ばれ、Kリーグで最も注目されるFCソウル戦で2ゴール2アシストの大活躍。新たなプレースタイルで、確固たる自信を得た。
「周りを使えば、もっと自分が生きるんだぞって」
試合後、川崎Fを離れてからも、ことあるごとに連絡を取り合っていた尊敬する先輩に、喜び勇んで動画を送った。
「(中村)憲剛さんに褒めてもらいたくて、すぐに連絡した」
まもなくして返信がきた。
「やっとサッカーが分かったか。昔からずっと言っていただろ。周りを使えば、もっと自分が生きるんだぞって」
実は昔から指導者や周囲の人たちにも言われていたのだが、鼻っ柱の強い自信家はあえて耳をふさいでいた。
「スタイルを変えて、点が取れなくなっても誰もその責任は取ってくれないからね」
口元を緩めて、昔の自分を懐かしむ。気が付くのは少し遅れたが、今はゴール前でよりクレバーな判断を下し、得点を重ねている。プロデビュー当時から知る川崎F元監督の関塚隆氏も、スタイルの進化に目を細める。
「ボールを収めて、そこからパスを出せるようになった。本当に成長したよ」