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レスターは終盤戦にこそ化ける?
脚本はシェイクスピア新監督が描く。 

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井川洋一

井川洋一Yoichi Igawa

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posted2017/03/19 08:00

レスターは終盤戦にこそ化ける?脚本はシェイクスピア新監督が描く。<Number Web> photograph by AFLO

セビージャ戦後、満面の笑みでマフレズを称えるシェイクスピア監督。万が一、彼がCL制覇を成し遂げれば、それこそ“おとぎ話”である。

幸運はあれど、レスターらしさを取り戻したのも事実。

 ところが、キツネたちは突然化けた。昨季の姿を取り戻したと言うべきかもしれないが、その変わり様にはなんだか騙されたような感覚を覚えてしまう。指揮官交代の4日後にはリバプールに3-1で快勝し、その5日後にはハルを同じスコアで下した。この連勝により、偉大な詩人と同じ姓を持つ53歳は、少なくとも今季終了までチームを託されることになった。

 そして今週火曜日にはセビージャに2-0で勝ち、逆転でチャンピオンズリーグの8強に進出。岡崎慎司を筆頭に、誰もがエネルギーを発し続け、片時も集中を切らさずにボールを追う姿は、スポーツ界屈指の偉業を成し遂げた昨季のチームを思い出させるものだった。ただしジェイミー・バーディーの挑発に乗ったサミル・ナスリの退場や、キャスパー・シュマイケルのPKストップなど、ある種の幸運に恵まれたのもまた事実だ。

「僕らはシンプルなことをするのがとても得意なんだ」とダニー・ドリンクウォーターは新監督の影響について、『ガーディアン』紙に話した。「シェイクスは単純に、彼にできることをする。それがよかった」

 率直な意見だと思う。ラニエリは物事がうまくいかなくなってから、“ティンカーマン”(いじくりまわす人)と呼ばれたかつてのように、メンバーやシステムを変えていった。でもそれは、監督なら誰もがやりそうなことだ。昨季は驚くほどにうまくいっていたから、同じ顔ぶれを並べ続けていただけではないだろうか。歯車の狂ったチームを放っておけば、プロの指揮官とは言えない。

一昨年も降格間違いなしのところから残留を果たした。

 シェイクスピアが基本に立ち返って、昨季のレギュラー(チェルシーへ移籍したエンゴロ・カンテ以外)を同じ布陣に配しているのは確かだ。それをふまえると、やはりモチベーションが何よりも肝心だと言えるのかもしれない。多くの物事と同じように。

 ただレスターはここ数年、不思議な激変を何度か見せてきた。一昨季、ピアソン監督に率いられたチームはシーズンの大半を降格圏で過ごしながら、最後の7週間ほどを7勝1分1敗で締めくくり、急浮上してプレミアに生き残った。

 降格圏からの“大脱走”と驚かれたものだが、この時は指揮官の交代はナシ。要因を求めるなら、中盤戦から舵を切った守備的なスタイルが結実していったと言えるかもしれない。ただその間、終盤にゴールを何度も決めたチームには、何かが憑依していたようにも見えた。

【次ページ】 「終わりよければすべてよし」という戯曲になるか。

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