“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
浅野拓磨は“賢く体をぶつける”。
小柄でも球際で負けない方法論。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2017/02/18 11:30
フィジカル的なテクニックも生かして、浅野は海外1年目ながら定位置を確保した。精神面では同僚の細貝萌の存在も大きいはずだ。
試合中には考える前に“感じる”ことが大事。
“相手に背中を見せるプレー”を反射的に実行したのだ。浅野はその意図をこう続ける。
「当然、身体を当てた後もDFが追いかけて来る。でも僕がボールに追いついた時、また瞬間的に身体が動いたんです。右足でシュートが打てるようにボールを持ち出すこともできましたけど、あえて左に持ち出して、中央に行きました。
中にトラップすることで、追いかけて来たDFに対して完全に前に立つ体勢を作れたんですけど、もしあれを右に持ち出したら、スライディングやシュートブロックに合います。でも完全に相手に背中を見せた状態になれば、相手がブロックに来てもPKになる可能性が高いですから」
染み込んだ感覚が、瞬間的な判断と実行を生み出す。そこには自らのスピードとフィジカルを最大限に生かす“匠の業”がふんだんに盛り込まれていた。
「試合中に“どうしたらいいんだろう?”と考えてからだと、たとえ頭では分かっていても、プレーが一瞬でパッと出ない。だからこそ“感じる”ことが大事なんです」
疲れていたら、オーバメヤンのようには走れない。
彼のスピードの真骨頂は自らのフィジカルとマッチした、深層心理に染み込んだ感覚にある。ただ闇雲に走るのではなく、蓄積した経験を、直感的に爆発的なスピードで実行する。だからこそ、彼はフィジカル強度の高いブンデスリーガにすんなりと適応することが出来たのだ。
「まだまだ守備に追われる時間が長くて、自分の良さである攻撃での爆発的な力を出し切れていない。疲れている状態でオーバメヤンより速いスピードは出せません。なので、守備をしている中でもそのスピードが出せるように、もっとプレーの質を上げていきたい」
浅野拓磨はただのスピードアタッカーにあらず――。
今は、その質にさらに磨きをかけようとしている。この作業こそが浅野が海外に求めていたことであり、進化しようとしているポイントなのだ。