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少林寺にて、武僧として生きること。
3年に及ぶ撮影で目撃した超人の世界。
text by
大串祥子Shoko Ogushi
photograph byShoko Ogushi
posted2017/01/12 11:45
カナダ人もロシア人も耐えられない極寒に……。
寒さとの戦いも、恵まれた国の人間には辛い。
春節前に訪れたとき、ホテルの空調が全然効かず、外にいるときと同じ完全防備の格好をして布団に入っても、凍えてよく眠れないことがあった。
雪の多いカナダからの武術留学生やロシア人も不眠に悩んでいたから、我だけが根性無しということではないと思われる。
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帰国途中に悪寒がし、その足で病院に行くとインフルエンザと診断された。もうろうとした頭で、何故あれで平気なのかと空恐ろしかったのを覚えている。
方丈・釋永信という少林寺の改革者。
少林寺は1970年代までは荒廃した淋しい寺であった。歴史上、何度も時の軍隊に襲われ、近年では文化大革命で貴重な仏像や仏典が焼かれたり壊されたりしたという。それを一代で今の隆興へと導いたのが、少林寺の方丈(住職の意味)・釋永信である。
中国では知らぬものがいない「宗教界のCEO」と呼ばれる方丈は、「少林寺」を商標登録し、使用料を取り、世界中のメディア取材を受け入れ、他国にも別院を広げ、観光や武僧たちのワールドツアーをプロデュースしたりと、強力なアイデアを次々に実行していく人である。廃墟同然だった寺は見事にかつての栄光を取り戻した。破壊された建物の復興には、かつて日本から来た客人が撮影した写真が用いられたと言われている。少林寺では才能があれば若者を大胆に起用する。
ランドクルーザーに乗り、ロレックスをし、商業的に成功を収めていることを揶揄する人々から心ない噂やゴシップのネタにされることも少なくない。
方丈は寝る暇もないほどひっきりなしに法会や来客をこなしているが、我が行くたびに時間を割いて、声をかけて下さる。「1人の時間とかあるんですか」と聞くと、「寝るときだけ」と笑っていらした。