箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
青学を強くした「筋肉の優先順位」。
ひねりは不要、腕立てはしない!?
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byTakuya Sugiyama
posted2017/01/09 11:30
出雲駅伝、全日本大学駅伝に続き3冠をなしとげた青山学院大学。入学後の選手たちの成長が、他大とは一線を画している。
3代目“山の神”は、腕立て伏せをぴたっとやめた。
しかし、駅伝選手は違う。基本的に身体をひねることはなく、ストップやターンもない。安定した姿勢で真っ直ぐに走ることが求められる。サッカー選手の体幹トレーニングが、そのまま当てはまるはずはないのだ。
青学のスタッフとなった中野は、長距離走の選手にふさわしいトレーニングメニューを整理し、その順番を徹底していった。腕立て伏せ、腹筋、背筋などを、禁止することもあった。腕立て伏せは胸や肩周りの筋肉を増やすことにつながり、腕を振るために必要な肩甲骨の動きが悪くなってしまう、といった理由である。走りの効率を阻害するリスクを、腕立て伏せははらんでいるわけだ。
2014年、2015年シーズンの箱根駅伝で山登りの5区を走り、3代目“山の神”と呼ばれた神野大地が言う。
「僕は大学3年時に初めて中野さんに会いましたが、それまでは準備運動も整理運動もラジオ体操の延長というか、走る前も走る後も同じようなものをやる感じでした。それは、青学に限ったことではなかったと思います。でも、中野さんが来てからは、準備運動では走りに使う筋肉をしっかり温めるとか、事細かく教えてもらえるようになりました。それによってチームのレベルが上がりましたし、僕自身も競技力が上がっていきました。中野さんと会ってから、僕は腕立て伏せを一度もやっていません。その代わりに、肩甲骨の動きを良くするストレッチを毎日やっています」
長距離走にふさわしい筋肉を、必要な順番で。
最初に深層の筋肉を鍛え、骨格を安定させる。それから表層の筋肉を強化し、骨格を力強く支えられるようにする。体幹トレーニングだけでなくストレッチやアイシングの方法などを、中野は丁寧に説明していった。
「私が関わる以前の青学のウォーミングアップや補強トレーニングも、一つひとつは決して間違いではありませんでした。ただ、長距離走にふさわしい筋肉を、重要度の高い順番でつけていくように変えていったのです」
シーズンを通して細やかに対応するために、中野らフィジカルトレーナーは継続的に練習や合宿へ足を運ぶ。それと並行して、都内のスタジオでパーソナルのセッションを行なっている。