野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
ベイスターズの2016年は最高だった。
始まりは「またか」、最後は涙。
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byKyodo News
posted2017/01/01 11:30
CSで巨人を下した直後のラミレス監督とベイスターズナイン。ファンが勝利を信じられるようになったのも、彼らの真剣さがあればこそだ。
広島の片隅で響いた「もう一度、横浜に帰ろう!」。
勢いに乗って乗り込んだ広島でのファイナル。一面真っ赤に染まったスタンドで、結果を見れば1勝3敗。しかし“負けたら終わり”の崖っぷちに追い込まれた第3戦の8回。フェンスに恐れず飛び込む石川雄洋、終盤に肉離れを起こしCS絶望と目されながら二死満塁4番新井という大ピンチの場面で登板した須田幸太、その好投に報いようと左手の指を骨折しながらボールを追い掛け、フェンスに激突しながらボールを離さなかった梶谷隆幸。
数年前まで散々スタンドから野次を浴びせられ苦闘してきた彼らが、明日なき戦いに身を置き、絶対に勝つという執念を見せていた。
結果にこだわった今シーズン。その最後の最後に勝敗なんてどうでもよくなった。弱すぎて他の要素に逃げることでしか楽しみを見つけられなかった昔とは真逆の意味だ。こんなに大きな舞台で、死に物狂いで戦っている選手たちが眼の前にいる。これ以上の喜びなんてない。
この広島の片隅で、小さな一画に集まったベイスターズファンは半分泣いていた。ベイ愛・谷口団長の「もう一度、横浜に帰ろう!」という叫びに雄叫びを上げた。中継の音声も拾わない、全体から見れば小さな叫びだったのかもしれない。だがその観衆の声は、ベイスターズの復活を、そして横浜がホームグラウンドとして帰ってきたことを改めて証明したように思う。
山口俊の離脱は痛い、本当に痛いが……。
第4戦、今季本当に頑張ってくれた今永が初回6失点KO、粘りに粘って1点差で迎えた最終回。筒香が中崎の直球勝負に三球三振で終えた戦いは、来季へ続く物語のはじまりである。優勝したカープはべらぼうに強い。阪神にもいいようにやりこまれた。そして巨人。
ラミレス監督にエースと期待され、開幕、CSと離脱したものの、大事な所で結果を残してくれた山口俊。苦楽を共にした愛すべき豪腕が、FAでチームを去ったことは痛恨の極みである。しかし、沢村賞を獲れると言われるほどの才能を持ちながら、結果が出ない弱い自分とぐちゃぐちゃになりながら戦い、時に涙を流しながら結果を残し、得た権利なのだ。FAのゴタゴタで、せっかくの掴みかけた一流投手への手掛かりが、これで元に戻ってしまうようではあまりにも救いがない。