欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
内田篤人「本当に無駄な1年9カ月」
言葉と裏腹に表情は嬉しそうだった。
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byAFLO
posted2016/12/09 14:30
試合後、報道陣の取材に答える内田。クールなやり取りの中にも、表情と瞳からは確実に充実感が漂った。
「やっぱり勝ちたい、と頭に浮かんだのは良かった」
苦戦を強いられるチームを見ながら、氷点下の寒さで身体を冷やさないように務めながら、「上げすぎてもいけないな」と出番を待った。そして、「どうやったら勝てるのか」という気持ちが湧いてくるのを感じた。
「やっぱり勝ちたい、勝ちにいこうというのが頭に浮かんだのは良かったと思う。やっとグラウンドに立てて、自分のなかで浮かんだのは、怪我なくとりあえず試合を終えたいなじゃなくて、どうやったら勝てるかなって試合を見ながら思っていたし、勝ちに行くって思えたのはいいことだと思う」
プロアスリートとしての感情が自然と芽生えたことを、この日一番の喜びだと語った。
「監督にとっても俺はまだ“よくは知らない選手”だと思うし、チームメイトだって、いっしょにプレーしたことのない選手も多い。まあでも、それは時間が解決してくれること。シャルケに初めて来たときと同じようにね」
内田篤人の毎日に大きな変化はないのかもしれない。
90分間戦える“戦力”になるためには、まだまだ時間が必要だろう。怪我からの復帰で最も苦しいのは「リハビリよりもプレーができるようになってから」という選手は少なくない。自分の身体の声を聞きながら、ときには欲を抑え、我慢しなければならない。負傷から癒えた身体はかつての身体とは違う。「もっとできるはずだ。なぜ今はできないのか」という葛藤もあるからだ。
昨日よりも今日。できることが増えていく。小さな積み重ねを繰り返し、ここに到達した。けれど、内田篤人の毎日に大きな変化はないのかもしれない。ここからもまた、試行錯誤は続くだろう。まずは自分の身体。そして、今度はレギュラー争い。勝利への貢献……。
内田の未来がどうなるか、どんな選手になっていくかはわからない。でも、それは、2010年シャルケへ移籍したときも同じだったはず。挑戦することで、可能性は広がり、大きく成長した。
1年9カ月ぶりの実戦復帰は、内田の新しい挑戦の始まりとなる。