書店員のスポーツ本探訪BACK NUMBER
黒田博樹の野球観、人生観を知る。
「決めて断つ」ことで得た正解。
text by
濱口陽輔Yosuke Hamaguchi
photograph byWataru Sato
posted2016/11/29 17:00
「男気」というキャッチーな言葉で語られることが多いが、黒田の本質はもっと奥深いところにある。
メジャー屈指の大投手カーショーとのエピソード。
ここで読む側の涙腺を刺激するエピソードが語られている。メジャーリーグの世界では1年間キャッチボールをする相手は決まっている。4年間にわたって黒田のキャッチボールの相手だったのが、今やメジャー屈指の大投手クレイトン・カーショーだ。現在では元広島のエース前田健太と一緒にプレーしているのが、カープファンとしては感慨深い。
そんなカーショーの人間味あふれる、あるエピソードが胸を熱くする。カーショーのように尊敬される人間にならないと――。黒田にそう思わせる人物はなかなかいない。
道を選んだら、それを正解にするために努力する。
'12年、黒田は再びFA権を取得して決断を迫られていた。日本に戻ってカープでプレーをするか、ドジャースに残るか。結果として世界屈指の名門ニューヨーク・ヤンキースに移籍するのだが、その時点ではどちらが正解なのかは分からないのだ。しかし、ひとつの道しか選べない。
ひとつの道を選ぶのには、徹底的に考え抜くことが必要だ。それが正解とは限らないが、自分で決めた以上「あれだけ考えたのだから、これが正解だ」と思わなければやっていられない。むしろ選んだ道が「正解」となるように努力することが大切なのだ。
事実、それをやってのけた黒田だからこそ重みがある言葉だ。
語り草になった横断幕と、黒田を結び付けた絆。
黒田が初めてFA権を取った年。2006年10月16日の試合を覚えているだろうか? 日付は曖昧でもこの横断幕を覚えている人は多いのではないだろうか?
「我々は共に闘って来た 今までもこれからも… 未来へ輝くその日まで 君が涙を流すなら 君の涙になってやる Carpのエース 黒田博樹」
この年カープに残留する決断をするのだが、翌年メジャー挑戦。同時に未来のカープ復帰も決まったように今だからこそ感じる。
「他球団のユニフォームを着て、市民球場でこんなに熱いカープファンの前で投げることはできない」と思わせたのだ。