濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
武尊は魔裟斗以来のK-1スターになる。
2階級制覇で見せた強さ、カリスマ性。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakao Masaki
posted2016/11/10 11:00
ムーブメントを生むためには、競技の枠を超えて輝く選手は必須だ。現在のK-1界にとって、武尊はその役割を担える唯一無二の存在である。
階級を上げても、リングでは絶対には下がらない。
階級を上げたことで、当然ながら、対戦相手はこれまでよりも大きく、重くなる。準決勝のユン・チー戦では「久しぶりに(相手の攻撃が)効きました」。自分のパワーが上がったために攻撃の際の衝撃も大きくなって、右の拳を傷めた。足に関しては攻撃と被弾の両方で大ダメージを負った。
大会翌日の会見では「(痛いのは)どこって言い出したらキリがないくらいボロボロです」と苦笑いした。そんな状態で、しかし武尊は絶対に下がらず、相手をロープに詰めて連打を食らわせた。トーナメント3試合中、KO勝利は準決勝の1回のみ。しかし一回戦と小澤との決勝戦でもダウンを奪っている。階級を上げても、武尊の前に出る力、それを支える精神力はずば抜けていた。
もちろん、彼の強さのすべてを精神論で済ませるわけにはいかない。好戦的なパンチャーという印象が強い武尊だが、実は蹴り技も多用するタイプだ。試合後、攻防を詳細に振り返る姿からは、いかに理詰めで闘っているかも分かる。
「俺がチャンピオンじゃないとK-1がデカくならない」
前進するときは、ただ突っ込むのではなく前蹴りで相手を突き放しながら。ミドルキックと前蹴りの中間の軌道を描き、爪先でボディをえぐる三日月蹴りはサウスポー対策で身につけたものだという。相手が前に出ようとすればカウンターのヒザ。パンチはほとんどがボディから顔面につなげるコンビネーションだ。
K-1のレベルになると、無闇に顔を殴ろうとしてもヒットしない。幅の広い攻撃で的確にダメージを積み重ね、その上で倒す。そういう“組み立て”こそが、ハートの強さと並ぶ武尊の最大の武器だと言えるだろう。
「きつかった(笑)。でも、俺がチャンピオンじゃないとK-1がデカくならないんで。俺と一緒にK-1を盛り上げてください。K-1最高!」