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カブスの“人を助ける男”の物語。
愛と友情のバットで主砲が復活。
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byAFLO
posted2016/11/01 11:00
今季32本塁打、109打点の主砲リゾはシーザーと同い年の27歳。チーム浮沈のカギを握る3番打者だ。
手術から1年後、はじめて少女と顔を合わせた。
シーザーが「遠い異国で見知らぬ女の子が病に苦しんでいる」と聞いたのはそんな時だった。フットボールのシーズンが終わってから、野球のシーズンが始まるまでは数カ月。骨髄を提供すれば大学野球の開幕には間に合わない。だが、決断を先延ばしにすればするほど、生存率は低くなる。“スポーツ二刀流”の大学生は迷わず決断し、そのお陰で1つの幼い命が救われた。
シーザーがその女の子、アナスタージャ・オルコフスキーとスカイプで顔を合わせたのは、彼女が4歳になった時のことだった。骨髄提供から約1年後、2010年のドラフトでカブスから5巡目(全体160位)指名を受けてプロ野球選手になっていた。
「僕はロシア語を話せないので通訳を介してだったけれど、とても心が熱くなるような対話だったし、何よりも彼女が元気でいてくれることが心強かった」
その後、彼とウクライナの内戦を逃れてイスラエルに移住して現在7歳になったアナスタージャと彼女の両親との交流は続き、その様子はスポーツ専門のケーブルテレビ局のドキュメンタリー番組でも詳しく紹介された。
ベンチ入りを許された選手には、理由がある。
バットを借りて本塁打を打ったリゾは、若い頃にリンパ腫を患った経験があるために、熱心に慈善事業を繰り広げている人であり、シーザーを特集した番組の見て心を動かされた視聴者の1人でもあった。
「彼が大学時代にやったことは、とても勇気があることだよ」
リゾはそう盟友を称える。もちろん、シーザーはあくまで野球選手であり、すでに27歳と若手とは呼べない年齢になっているのにポストシーズンの出場選手枠から外れたことについて、「フラストレーションはあるよ」と正直に話す。
「でも、自分に与えられた仕事を喜んで受け入れたいんだ。そして、必要とされた時にいつでも応えられるように準備し続けるだけさ」
登録枠から外れてもベンチ入りを許される選手たちには、それなりの存在理由がある。登録選手が怪我でもすれば、最初に声をかけてもらえるという「控えの控え」。だが、川崎のように練習中から元気に声を出して仲間を鼓舞したり、内野の連携プレーの練習台になったりするのが彼らの仕事だ。
シーザーの場合、そこに“愛と友情のバット”が加わるのである。