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カブスの“人を助ける男”の物語。
愛と友情のバットで主砲が復活。
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byAFLO
posted2016/11/01 11:00
今季32本塁打、109打点の主砲リゾはシーザーと同い年の27歳。チーム浮沈のカギを握る3番打者だ。
「言ってみれば、愛と友情のバットってところだね」
「どんな方法でもチームを助けられれば、何本バットを折られても構いはしないさ。ま、言ってみれば、“愛と友情のバット”ってところだね」
シーザーはそう話す。5回の第3打席で本塁打を放ったリゾは、続く2打席でも中前打と左前打を放ち、前夜の内野安打を含めれば、シーザーに借りたバットで4打席連続の安打を記録した。不振を脱出した主砲のお陰もあって、カブスは1勝2敗から3連勝。1945年以来という歴史的なリーグ優勝を果たした。“愛と友情のバット”の面目躍如である。
チームメイトのバットを借りて仲間の選手が不振を脱出する話はよく聞く。だが、それがシーザーのバットだったことで米メディアの関心は高まった。というのもシーザーが大学時代から“人助け”で有名だったからだ。
大学時代、ウクライナの少女に骨髄を提供した経験が。
シーザーは高校時代からスポーツ万能で、フットボールの奨学金を得て大学へ進学すると、フットボール部のコーチが奨励する骨髄バンクに登録した。彼はそこで「骨髄を必要としている患者と完全にマッチするのは8万分の1の確率」と教えられたそうだが、シーザーがリーグの最優秀選手としてフットボール部を初優勝に導いたその年、遠く離れたウクライナでその患者が見つかった。詳しい個人情報は規則により開示されなかったが、生後15カ月なのに白血病を患っている女の子だと聞かされた。
「遠く離れた場所で女の子が苦しんでいると電話で聞いて、自分の人生がそれまでどれほど恵まれていたのかってことに気が付いたんだ」
当時の彼は「僕はあくまでフットボールと勉学のために大学に来たのであって、野球はただの娯楽」と話しており、2年生の時には勉学と2つのスポーツの両立にあまりにも疲れ、野球部を退部する気でいた。
ところが、フットボールの花形ポジションであるワイドレシーバーとしてNFLからも注目される飛び抜けた彼の走力と強靭な肉体は、野球でも一発長打のある俊足の外野手として才能を開花させた。