リオ五輪PRESSBACK NUMBER
ボルトの“一瞬の睨み”に「やべっ」。
ケンブリッジ、12年越しの夢とその先。
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byJMPA
posted2016/08/30 17:30
コンマ何秒の瞬間だが、ボルトは確実に日本のレーンに視線を向けた。それはケンブリッジにとってかけがえのない時だった。
真新しい「ダークホース」スパイクを着用した。
15歳の時に持った「いつか一緒に走りたい」という夢は、オリンピックという最高の舞台で実現した。
8月19日に行われた400mリレーの決勝。日本は山縣亮太(セイコー)、飯塚翔太(ミズノ)、桐生祥秀(東洋大)、ケンブリッジと37秒68のアジア新記録を出した予選と同じメンバー。ジャマイカは予選と決勝でメンバーを入れ替え、アサファ・パウエルが1走に入り、ヨハン・ブレーク、ニケル・アシュミード、アンカーには怪物ウサイン・ボルトが入った。ジャマイカは4レーン、日本は右の5レーン。ケンブリッジはボルトと最終アンカー区間で競うことになった。
前の走者とのタイミングを見るために、一歩ずつ歩数を確認するケンブリッジの足元には真新しいスパイクが輝いていた。右足の外側は日の丸、内側には馬、左足の内側はジャマイカの国旗があしらわれたもので、馬は日本選手権100mで「ダークホース」として勝利を挙げたことからリオ五輪でも挑戦者として活躍してほしい、というアンダーアーマー製作者の期待が込められていた。
派手な事や目立つのが苦手なケンブリッジは「こんな派手なスパイクを履いているの僕だけですよ。恥ずかしいです」と言いつつも、勝負スパイクの紐を結んだ。
ボルトが並んだ瞬間「きた、きた、キターーーーっ」
1走の山縣が抜群のスタートでトップ集団で2走の飯塚へ。伸びのある走りを見せた飯塚は米国、ジャマイカに続いて3走の桐生へ。
「前の3人がいい位置で持ってきてくれると信じていた」というケンブリッジは、カーブを爆走してくる3走の桐生が所定の位置に来ると迷わずに飛び出した。日本、ジャマイカ、米国がほぼ横一線。バトンを受け取るとケンブリッジは前だけを見て走った。4レーンのボルトは、左手でバトンを受け取ると無意識に右手に持ち替え、すぐにケンブリッジに並ぶ。
「きた、きた、キターーーーっ」
チームメイトが好位置で持ってきてくれると信じていたので、ボルトと争うことは予想していた。だから焦りも硬くなることもなかった。「どこまでついていけるかと思って走った」と話すように、ボルトに果敢に挑戦した。