Jをめぐる冒険BACK NUMBER
柏の小さな巨人が示した川崎攻略法。
155cm・中川寛斗の“気が利く守備”。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2016/08/30 11:00
ここ近年多くの選手がトップ昇格を果たしている柏の育成組織。手塩にかけて育てた選手のひとりが中川である。
縦を狙う川崎、防ぐ柏の構図に“クラシコ”を想起。
それでも縦パスを入れ、中央を崩してしまうのが川崎の真骨頂。この試合でも、あの手、この手で柏のブロックを壊しにかかった。だが、この日の柏の守備が光ったのは、まさに縦パスを入れられた瞬間だった。2ボランチと2センターバックが素早く寄せてボールホルダーに襲いかかった。ボランチの栗澤僚一が振り返る。
「川崎は縦への意識がJリーグで最も強いチーム。簡単には横に繋がないのは分かっていたので、全員の距離を狭く保ち、縦に入れてきたとき、いかにそこにいけるかを常に意識していた」
ボールを握り倒してゴールをこじ開けようとする川崎と、隙のないブロックと高速カウンターで対抗する柏――。そんな攻防を見ていて思い出したのが、ペップ・グアルディオラのバルセロナとジョゼ・モウリーニョのレアル・マドリーによるクラシコだ。
モウリーニョは4+4の守備ブロックの間にセンターバックのぺぺを配置することで守備ブロックをより隙のないものにしたが、この日の柏の守備においてプラスアルファをもたらしていたのは、2トップの一角として起用された中川寛斗だった。
中川の貢献はダメ押し点だけではなく守備でも。
川崎のボランチにプレッシャーをかけて「守備のスイッチ」を入れただけでなく、柏のボランチが釣り出されたときには、中盤の底まで下がってその“綻び”を繕った。
「川崎はワンツーで入ってきたり、割り込んで来たりするのがすごくうまいチーム。あそこで中村憲剛さん、大島僚太さんにボールをもたせたら必ず失点につながるので、意識して埋めようと思っていた」と中川は涼しい顔で振り返ったが、それでいて、5分にディエゴ・オリヴェイラの2点目を演出しただけでなく、75分には長距離を走り、試合を決める5点目を決めたのだから、そのスタミナには恐れ入る。
この試合のMVPが3ゴールのディエゴ・オリヴェイラか4ゴールに絡んだクリスティアーノなら、陰のMVPは紛れもなく155センチの、この“小さな巨人”だった。