野球善哉BACK NUMBER
甲子園の“エース酷使”解決策。
高校野球にリーグ戦の導入を!
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2016/08/29 11:50
3度目の甲子園でも、その存在感を十分に見せつけた木更津総合のエース早川。千葉大会からの疲れが甲子園でも残っていたのかどうか……。
年間スケジュールの“過密化”が育成を阻害する。
今の日本の高校野球の解決すべき事案に、2つが挙げられる。
ひとつは年間スケジュールが詰まりすぎている点だ。
夏の大会が終わると、すぐに春のセンバツへの参考となる秋季大会の地区予選が行われる。2002年からは秋の明治神宮大会優勝校の所属地区にセンバツ出場枠が設けられたことも手伝って、同大会に地区大会優勝校を送り出さねばならず、各都道府県大会の期日が早まった地区は多い。府県によっては夏の甲子園期間中に、地域の一次予選が始まっているところさえあるほどだ。
新チームになって、これから失敗を重ねて、チームの問題点を整理していかなければいけない時期に、もう明日なき戦いが始まる。彼らはいつ育成の時間を有するのだろうか。
140キロを超すストレートやキレのある変化球を投げる投手がいれば、その存在に頼ってしまうのは当然だろう。どれほどたくさんの投手を抱えていても、なるべく勝利が近づく投手を選択するしかない。高校野球は教育の一環だというが、失敗する環境下にない。
一度の敗戦も許されないトーナメント制の光と影。
さらに、高校球児に「失敗させない」環境を作っているもう一つの要素として、高校野球の大会の多くがトーナメントで行われている点だ。
トーナメントの一発勝負は、勝負根性を養うことができ、様々な戦術が生まれ、野球の質を高める要素の1つになっているのは確かだ。しかし一方、負けることが許されない側面を持つ。作戦はより確実な方を選択していくことになり、投手の起用においては2番手以降の投手の出番はかなり難しい。つまり、エースを使わざるを得ない。
地区によっては大会の序盤(地域予選)にリーグ戦や敗者復活を採用しているところもあるし、夏の甲子園の本大会ほど日程が詰まっているわけではない。しかし、その大会が「負けることが許されない」センバツ出場を懸けた公式戦である限り、複数の投手を育てるのは至難の業といえる。
1年間でもっとも盛り上がる夏の甲子園が一発勝負になることは避けられないとしても、せめて、それまでの過程で選手をじっくりと育成するための時間――オフシーズンをただ長くするのではなく“負けても次がある公式戦”を作っていく――こそ、今の高校野球界が作り出さなければいけない環境ではないだろうか。