リオ五輪PRESSBACK NUMBER
何度も、何度も観客に感謝のお辞儀。
ボルトが告げたトラックへの別れ。
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byJMPA
posted2016/08/19 19:00
ウサイン・ボルトはゴールラインを越えた瞬間から無念さを全身で表明し、そして観客に向けて笑顔を作った。その様は、まさにスターだった。
僕の舞台を見に来てくれてありがとう。
「勝つために五輪に来たし、勝つことができた。勝利には満足しているけれど、タイムは全然満足していない。世界記録の自信はあったけれど、コーナーを抜けたあたりでタイムは狙えないと思った」
6日間で、100mと200mの6レース。閉会式の行われる21日に30歳の誕生日を迎えるボルトの体には、確実に疲労がたまっていた。
「疲れた。もう年だ。リカバリーも昔みたいに早くできないよ。若いやつはいいよな」
銀メダルをもぎとった21歳のドグラスを見やりながら、ボルトはそう話した。
「目標だった2冠を達成できて幸せだ。ここまでは予定通りだ。あと1つ、リレーで最後の五輪になる」
100m決勝ではゴールした後もそのまま第2コーナーあたりまで走り続けたが、今日は違った。
勝利の余韻と自身の舞台のフィナーレをかみしめるように、ゆっくり歩を進め、何度も何度も足を止めて観客に深々とお辞儀をした。
僕の舞台を見に来てくれてありがとう。本当に本当にありがとう、と心の中でつぶやいた。
メダリストたちが出席する記者会見が終わったのは、レースから約2時間後だった。長い夜が終わり、外に出ると土砂降りの雨が叩きつけていた。ボルトとの別れを惜しむかのように。