リオ五輪PRESSBACK NUMBER
「パーフェクトではない。でも幸せ」
ボルトは200mも王者であり続けた。
posted2016/08/19 16:30
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
JMPA
ゴールしたあと、ゆっくりと歩くその姿に、大きな歓声が注がれた。
100mに続き200mで優勝したウサイン・ボルトは、この日も圧倒的だった。
レースそのものは、カーブを抜けた時点で勝負が決まっていた。タイムは19秒78。誰も寄せつけることはなかった。雨が降り注ぎ、向かい風の中のレースであっても、その強さは否定しようがなかった。
「(世界記録更新は)難しいと思っていた。努力はしたけれど、体が応えてくれなかった」
一方で、こうも語った。
「パーフェクトではない。でも、勝利したことは、とても幸せだ」
これで、オリンピック100、200m2冠を3大会連続で達成となった。
2008年の北京五輪で、100、200mともに世界新記録を樹立、しかも従来の記録を大きく塗り替えたのが、ボルトの伝説の始まりだった。
以来、陸上界のスーパースターとして君臨してきたボルトだが、常に他を圧してきたわけではない。ときに、王者の地位を失いかねない危機にも直面し、その都度限界説を退けて、今日まで来た。
北京五輪後、もっとも低迷していた昨シーズン。
例えば、2011年の世界選手権100mではフライングで失格となり、スタートに苦しむことになった。
最大の危機と言えるのは、昨シーズンだった。
ボルトがシーズン開幕から調子が上がらずにいた。一方で、ジャスティン・ガトリン(アメリカ)が好調を誇っていた。世界選手権の時点では、100mのシーズン世界ランキングでガトリンが1位にいた。
ボルトが敗れるかもしれない。世界選手権は、その一点に注目が集まった。
実際、準決勝までの走りでは、ガトリンが優勝候補筆頭と言っておかしくない状態にあった。
だがボルトは、その雰囲気を決勝で一蹴する。わずか0.01秒の差ではあったが、ガトリンを破り優勝を果たしたのである。