リオ五輪PRESSBACK NUMBER
怪我の影響を頑なに否定した理由。
石川佳純は、同情より「次」を選んだ。
posted2016/08/08 18:00
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph by
Yusuke Nakanishi/AFLO SPORT
五輪の魔物。
オリンピックで有力選手が思わぬ敗戦を喫したときに登場する使い古されたフレーズだが、どうやら魔物にはいろんな性格があるらしい。最初は優しくても、油断は大敵。どんな形で罠を仕掛けてくるかわからない。それを痛感したリオ五輪の卓球女子シングルス3回戦だった。
魔物の標的となったのは、石川佳純。
最新の世界ランクは6位で、有力なメダル候補であることは間違いない。相手は、世界ランク50位のキム・ソンイ(北朝鮮)。今大会初戦の緊張感はあるにせよ、誰もが石川の勝利を予想する試合だった。
普通、有力選手が魔物の罠に引っかかる「まさか」のパターンは、五輪初戦のプレッシャーによって動きが硬くなり、序盤に流れを失うことで焦って自滅するというもの。ところが、この日の石川は試合前の選手紹介からリラックスした表情を浮かべ、実際に試合が始まっても、軽快なフットワークと強烈なフォアハンドで順調に得点を重ねた。カットマンであるキム・ソンイの粘りをものともせず、第1、第2ゲームを11-7で連取。石川本人も「体もよく動いていたし、出足も良かった」というほどの内容だった。
「試合では初めて足がつりました」
第3、第4ゲームこそ石川の打球に慣れ始めたキム・ソンイに奪われたが、第5セットは緩急を使い分けて、11-9。
これで勝負あり。
魔物の出番はなし。と、思われた。
ところが第6ゲームに、魔物は潜んでいた。序盤から気合をみなぎらせ、キム・ソンイのしつこいレシーブに対しても激しく動いてスマッシュを打ち込み続けていた石川の右足には、知らず知らずのうちに疲労が蓄積していた。
「試合では初めて足がつりました。序盤からすごく体は動いていたけど、激しく動いた分、つってしまったのかもしれません。試合が進むにつれて相手のボールが返ってくるようになって、私の打点が低くなってしまった」