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怪我の影響を頑なに否定した理由。
石川佳純は、同情より「次」を選んだ。 

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松本宣昭

松本宣昭Yoshiaki Matsumoto

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photograph byYusuke Nakanishi/AFLO SPORT

posted2016/08/08 18:00

怪我の影響を頑なに否定した理由。石川佳純は、同情より「次」を選んだ。<Number Web> photograph by Yusuke Nakanishi/AFLO SPORT

「今はまだ何も考えられない」と、アクシデントと割り切るにも辛い初戦敗退となった石川。「団体戦でリベンジ」と言い切った。

審判にメディカルタイムアウトが認められず……。

 右足の痙攣が始まったこのゲームを、9-11で落とした。

 このとき、石川のフォームに明らかな異変を感じ取った李鷺コーチは、最終第7ゲームを「棄権させるか、どうしようかと思った」ほどだった。

 その第7ゲーム、4-7となった時点で、ついに石川の右足は悲鳴をあげた。苦悶の表情とともに、ふくらはぎを押さえてしゃがみ込む。すぐにテーピングを巻こうと審判にメディカルタイムアウトを要求したが、認められず。そのままこのゲームも8-11で落とし、まさかの初戦敗退が決まった。

 この日の大きな敗因の1つが、右足の負傷であることは間違いない。ところが試合後、涙で目を腫らした石川は、頑なにそれを認めなかった。

 報道陣から何度も怪我の影響について問われても、口元を引き締めてこう言い続けた。

「プレー中に痛みはありませんでした」

「プレーに影響はありませんでした」

「ボールを打っているときは、足の状態は気になりませんでした」

「足がつったのは、私の体力がなかったからです」

「棄権することは、一切考えていませんでした」

 そして言葉にならないほどの悔しさと絶望の中で、懸命に未来を見据えていた。

「今はまだ何も考えられないけど、私にはまだ団体戦でリベンジするチャンスが残っています。この先の4年間、悔しい思いをしないように、団体戦でしっかりリベンジしたいです」

団体戦では、きっと勝利の女神が微笑んでくれるはず。

 怪我の影響を認めれば、きっと周囲からは同情してもらえる。でも、それをすれば、自分の中の弱い部分まで流れ出てしまう。だから彼女は、弱音や言い訳を全部、心の中に閉じ込めて、次へのエネルギーに変えようとしていた。

 五輪の魔物は確かにリオにも存在する。でも、これだけ強い心を持った人にならば、きっと団体戦では魔物よりも勝利の女神が微笑んでくれるはず。

 そんなことを思った、8月7日の夜だった。

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