濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
凶器、場外、コーナー禁止のプロレス。
佐藤光留が今も守るUWFの“遺伝子”。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2016/08/07 08:00
ヒールホールドで相手にダメージを負わせる佐藤。7月に36歳になった今もその意欲が衰えることはない。
インディーのレスラーが意外な武器で観客を驚かす。
『ハードヒット』のリングでそんなプロレスに挑むのは、佐藤がさまざまな団体に参戦する中で“これは!”と見込んだ選手たちだ。7月30日に開催された千葉Blue Field大会でメインに登場したのは、名古屋の団体スポルティーバエンターテイメントの岩本煌史。柔道出身の岩本は、切れ味の鋭い払い腰、その名も“孤高の芸術”と肩固めで元パンクラス王者のロッキー川村(川村亮より改名)を苦しめてみせた。
第2試合では、パンクラス軽量級の第一人者である砂辺光久が服部健太と対戦した。花鳥風月という団体に所属している服部のことを知っているのは、かなりコアなプロレスファンだけかもしれない。しかし彼は山梨学院大レスリング部出身で、社会人でも活躍したほどのバックボーンを持っている。結果として敗れたものの、序盤戦をタックルでリードしたのは服部だった。
岩本や服部のような、まだ全国区とは言えないインディーのプロレスラーが意外な“武器”を見せて観客を驚かせる。それが『ハードヒット』の魅力の一つだ。
「どこの団体かは関係ないです。どんどん名乗りを」
この日、佐藤が対戦したのは大日本プロレスの野村卓矢。今年4月にデビューしたばかりの新人だ。佐藤のグラウンドテクニックに翻弄され、最後はヒールホールドでギブアップした野村だが、思い切りのいい打撃は観客の記憶に残ったはず。ダウンを奪ったカウンターの掌底も抜群の鋭さだった。
「野村選手とは大日本の若手興行で知り合ったんですけど、オファーしてみたら本人も団体側もOKだというんで出てもらいました。これからも出てほしいですね」と佐藤。大日本と“U”はイメージとしてはかけ離れているが、いざ闘ってみればそんなことはなかった。野村もまた(発展途上とはいえ)“強さ”を磨いているプロレスラーの1人だったのだ。野村のような選手は、他にもたくさんいるはずだと佐藤は言う。
「どこの団体かは関係ないです。どんどん名乗りを挙げてほしい」。
かつて、第二次UWFを率いた前田日明は「選ばれし者の恍惚と不安」を語った。それから20年以上が経った今、佐藤光留は数え切れないほどの団体が存在するマット界で“選ばれし者”の資格を再定義しようとしているのだろう。2016年に“U”が存在する意義はそこにある。