リオ五輪PRESSBACK NUMBER
内村航平、“究極の技”のさらに先へ。
「自分が体操を通じて何を伝えたいか」
posted2016/08/06 12:00
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
AFLO
プレスカンファレンスの会場は、王者を称えるムードに満ちあふれていた。
'15年10月31日、英国グラスゴー。体操世界選手権で前人未踏の個人総合6連覇を達成した内村航平(コナミスポーツ)が壇上に上がると、地元の英国メディアをはじめとする世界各国の記者から、次から次へと質問が出て来た。どの質問も、偉業を達成したアスリートへのリスペクトを感じさせる丁寧なものだった。
「世界選手権で獲得した18個のメダルの内、9個が金メダルですが、この素晴らしい成績をどう思いますか?」(※会見2日後に種目別鉄棒で金メダルを獲得。メダル総計19個、金メダル10個となった)
「メダルの数や色は気にしていません。それより、演技の内容を重視して、見ている人にいかに影響を与えるかを考えています」
内村は、敬意への返礼のようにじっくり言葉を選びながら答えていた。
質問の意図をしっかりと咀嚼してから話し始めるのは、彼の普段のスタイルのままだが、昨年の世界選手権では団体でも金メダルを獲ったからだろう、表現がより深い部分を示すようになっている印象だった。
「技の難度に関してはこれ以上進化できないかな」
ハッとするような答えを聞いたのは、「今後もさらに進化していけるという思いはありますか」という問いを受けたときだった。
「正直、技の難度に関しては、もうこれ以上進化はできないかなというくらいまで来ています」
限界の察知ではない。体操の競技者として究極の域に到達しようとしているという自負である。王者は、だからこそ新たな使命を自らに課していることを明かすように、言葉を加えた。
「あとは、自分が体操を通じて何を伝えたいか、体操でどのように周りに影響を与えていくかということだと思っています。それは結果以上に価値のあること。それくらい、結果にはこだわらずにやっています」