話が終わったらボールを蹴ろうBACK NUMBER
二川孝広は東京Vで“ムフフ”と笑う。
内気な救世主は、既に信者を獲得中。
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2016/07/14 11:30
加入した東京ヴェルディで柔らかい表情を見せる二川孝広。彼の存在は、まだまだJリーグに必要である。
ヴェルディにも徐々に「二川信者」が増殖中?
若手に交じってワイワイやるわけではないが「フタさん」と少しイジられてる方が、ベテランや主力選手といるよりも居心地は良さそうだった。もちろん試合では気を使わないのだが。
それゆえ20代前半から中盤の若くて技術の高い選手が多く、王様がいないヴェルディの環境は、二川にとっては馴染みやすく、プレーしやすいに違いないと思ったのだ。
これからヴェルディの選手たちは二川のプレーのすごさをより実感することになるだろう。
今シーズン、ガンバ大阪U-23で一緒にプレーしていたU-19日本代表の中心選手、堂安律は二川信者だ。「フタさんはアイデアも技術も半端ない。すべてのプレーが参考になる」とガンバユースの先輩で「ファンタジスタ」と呼ばれた二川と一緒にプレーすることを楽しみにしていた。若手にとって彼は生きた教材であり、お手本だったのだ。
そしてヴェルディでも、徐々に信者を獲得しつつある。岡山戦を見たチーム関係者は「やっぱりモノが違う」と絶賛。決勝ゴールを決めた井林章は「触るだけ。非常にいいボールでした」とクロスの精度の高さに驚いていた。冨樫剛一監督は「経験、技術、すべての面でチームにとってプラスしかない。勝者のメンタリティを持ってやってくれるので選手たちは心強いと思う」と、さらなる二川効果を期待している。
活躍するために来たけど、注目されるのはイヤ。
ヴェルディの“救世主”としての期待を担っているが、二川自身は自分が前面に出ていくのがどうも苦手だ。ガンバ時代も遠藤や橋本英郎(現セレッソ大阪)を始め、優れたFWやMFの陰に隠れるように、必殺仕事人的な仕事をしていた。活躍してもミックスゾーンの遠いところを歩き、気付かれずにサッと帰ろうとしていた。その流儀は、今もあまり変わらないようだ。
「もちろんヴェルディに来たのは活躍するためですけど、注目されるのはイヤですよ。今日も誰かメインでいてくれた方がよかったです。ただ、コーチ陣からは『もっと要求していいで』って言われている。もうちょっとボールを落ち着かせて、散らせていきたいと思います。次はゴールも? そうっすね」
そう言ってムフフと笑った。