球体とリズムBACK NUMBER
ビルモッツ、コンテの両監督に注目!
EUROでのベルギー、イタリアの実態。
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byGetty Images
posted2016/06/25 11:30
イタリアに完敗した後、アイルランド、スウェーデンと戦術を進化させながら連勝したビルモッツ監督。
どうにもちぐはぐなビルモッツ監督のチーム方針。
僕が大会のプレビューを書く際に協力してもらったベルギー人記者も、「選手の多くはワールドクラスだけど、監督はそうとは言えない。予選と本大会は別物。率直に言って、不安の方が大きいよ」と話していた。
彼の見立てでは、ビルモッツ監督には致命的に経験が不足しており、それゆえにトレーニングも単純なものばかり。長身でヘディングの強い選手を何人も揃えているのに、なぜフリーキックの練習に多くの時間を割かないのかと問われても、「セットプレーの練習には意味がない」とむやみに切り捨てたように、何かを指摘されても学ぼうとする姿勢が見えないという。
ビルモッツ監督は自身の哲学を「選手ありき」とするが、ただ能力の高い選手たちを並べて、彼らのひらめきと即興に攻撃を委ねていると捉えられてもおかしくはない。また「高い位置からボールを奪い返して」と言うけれども、ここまでの戦いぶりを見るかぎり、そこに方法論が伴っていないのは明らかだ。
イタリア戦の後、守護神ティボウ・クルトワは「戦術的な敗北だ」と母国のメディアに漏らしたが、クラブでディエゴ・シメオネやジョゼ・モウリーニョといった細部にこだわる指揮官の指導を受けてきたのだから、不満を持って当然だろう。
「名選手、名監督にあらず」を再び目撃することに……。
現役時代にベルギー代表で70試合28得点を記録したレジェンドはオープンな性格の持ち主で、選手たちとの距離も近いという。ただしそれは監督として尊敬を集めているというよりも、気の良い兄貴的な感覚らしい。
教え子に理解を示すかつての偉大なプレーヤーが、黄金世代の能力を十全に引き出せなかった前例としては、我々日本人にも苦い記憶がある──そう、10年前のドイツW杯での日本代表だ。
規模は違うし、レッドデビルズのピークはまだ先にあるはずだが、それでも他人事とは思えず、大きな期待が裏切られた時の深い絶望は胸に刻まれている。あれをほかの国の人と共有したいとは思わない。