“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
フランス、ブラジル、韓国との激闘。
水原JS杯でU-19が得た貴重な経験。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2016/05/28 10:40
東京五輪世代のU-19代表。来年にはU-20W杯も控えている。この敗戦を糧に前へ進めるか。
「まさか一本であそこに通してくるとは」
次の瞬間、ドゥランドゥの左足が一閃する。しかもワンステップのみで。強烈なライナーを描いたボールは、町田の頭上を越えていった。ブラスもオフサイドにならないように町田の少し手前のポジションからスタートし、そのボールに追いつく。そして、ダイレクトで飛び出してきたGK小島亨介の頭上を破るループシュートを難なく沈めた。
「まさか一本であそこに通してくるとは……。ボールがあんなにグングン伸びてくるとは予想できなかった。『これが世界だ』と思った」
もし「一発で裏にくるかもしれない」というイメージをあらかじめ持っていれば、ラインを上げるときにブラスから目を離さなかっただろう。
さらに細かく言えば、ラインを上げた時、町田はDFラインに対し、平行に両足を置いていた。もしロングフィードを想定していたら、素早くターンとスプリントをしてブラスより早くボールに到達したり、ブラスに身体を当てて自由を奪うプレーをするべきだった。そのためにはラインアップの際に両足を縦に開いて半身にしたり、重心を低くするなどの「ターン&ダッシュ」の姿勢を取らなければいけなかった。
「いつも言われている課題があそこまで致命的に」
だが、両足を平行に置いて、「ターン&ダッシュ」の姿勢ではなく、「バックステップ」の姿勢をしてしまった。そのため、ロングフィードが飛んできた瞬間、彼は素早くターンができず、バックステップで反応し、予想外に伸びるボールが頭上を越えてから、ようやくターンする状況になった。そのおかげで、ブラスは完全にフリーでボールに触ることができた。
町田の口から出た「日本ではありえないロングフィード」。試合の翌日、町田に「あのシーンを振り返って、改めて自分が成長するためには、何が必要だと感じた?」と聞くと、こういう答えが返ってきた。
「世界ではあの位置からワンステップで強烈なボールが裏に来るということを体感できた。『来ない』と勝手に決めつけてしまい、自分が十分と思っていた準備が物凄く不十分だったからこそ、あんなに簡単に決められてしまった。秋田豊さんや(鹿島コーチの)羽田憲司さんにいつも口うるさく言われている僕の課題が、あそこまで致命的なプレーになることを痛感しました。『いつもステップを踏んどけ』とか、『大股になるな』とか。理解していたつもりでも、全く理解していなかったことが分かった」
普段教えを受けていたコーチたちの言葉の真意を実戦で体感することができた。これこそ町田がこの大会で得た大きなものだった。