オリンピックへの道BACK NUMBER
20歳の若者、そして国の代表選手。
桃田の「判断力」を改めて考える。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byKyodo News
posted2016/04/20 10:40
田児賢一(左)は、裏カジノで1000万円以上を使ったという。そのお金がどこから来たか、思いを馳せて欲しかった。
競技の場面以外では、歳相応の常識しかない。
自身のことはともかく、今回改めて気がついたのは、トップアスリートであっても、人としては歳相応というか、同世代の人々とかけ離れた超人なわけではないということだ。
稀に、こちらが驚くほどしっかりしている選手がいるのはたしかだ。高校生や、最近は中学生でも、大人と会話しているような感覚になる選手にも複数取材したことがある。
ただ、そういう選手は決して一般的ではない。トップアスリートと言えど、人としてスーパーな存在ばかりではない。同年代の人のようにいろいろ悩み、傍から見れば無駄なことだってする。それでも、ときに周囲の手も借りながら競技に打ち込んでいる、というのが実情だろう。
世の20歳前後の若者が、大学の先生が話していたようなレベルの知識や常識しか持ち合わせていないのだとすれば、その世代の選手も大差ない存在なのだ。
危険を回避する能力を身につける機会はあったか?
一方で、普通の20歳とトップアスリートには大きく異なる点がある。
アスリート、それも日本代表になるような選手は、同世代よりも遥かに大きな注目を集める存在となる。そうなれば必然的に、立場にふさわしい行動が求められる。ときには、悪意を持って近づいてくる人間や、彼らを何らかの目的で利用しようとする人が寄ってきたりもする。
トップアスリートには、その危険を回避するだけの判断力が必要となる。そこでは、常人から「かけ離れる」ことが求められる。彼らにその能力を築き、磨く機会がどれだけあったか……。一般の教育を受けてなお不足する部分を補うための方法を確立することが急がれる。
今回の件で、桃田と田児は多くの人に影響を与えることになった。彼らの周りには、私欲なくバドミントンの普及や強化に打ち込んできた人々もいた。そういう人たちにダメージを与えたのだ。選手たちは、その奮闘が見えていなかった、気づいていなかったのかもしれない。
「まわりに感謝できる人に、みんなに好かれる人になりなさい」
数々の実績をあげてきた指導者たちの中には、選手にこう教えてきた人が少なくない。そうあろうと努力して、競技の成績を超えて愛される、尊敬を集めるようになった選手たちがいる。
一連の流れの中で、その言葉の重みも、あらためて実感させられた。