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自由形短距離に現れた2人の希望。
中村克、塩浦慎理の日本記録コンビ。
text by
伊藤華英Hanae Ito
photograph byAFLO
posted2016/04/11 14:00
中村克(左)と塩浦慎理(右)。身体能力がストレートに反映される自由形は、日本にとって鬼門だった。2人の新星はどこまで行けるか。
ストレートアームの中村、前半型の塩浦。
期待された短距離のニューヒーロー。しかも2人。
2015年にカザンで行われた世界選手権、100mで塩浦選手は準決勝まで進んだが、15位で48秒96。中村選手は体調不良もあり予選敗退の49秒07だった。
きっと2人にとって、世界を知る試合になっただろう。
中村選手の特長は、「水面の上を滑るように進む、滑らかなストローク」と奥野コーチが絶賛するように、日本人選手の中では珍しいストレートアーム泳法を用いている。このストレートアームが水中での推進力を高めている。
また彼の競技に対するモチベーションや、トレーニング方法の探究心も特筆すべきものだという。早稲田大学のチームの中でも、目立つ存在だったのだろう。
カザンの世界選手権では不調だったが、その前に行われた2015年5月のジャパンオープンでは、48秒41の日本新記録を更新している。着実にオリンピックへ近づいていった印象だ。それだけにカザンでは、不甲斐ない気持ちだったに違いない。
塩浦選手の泳ぎの特徴について、高橋コーチは「ダイナミックな、外国選手に引けを取らない泳ぎ」と話す。そして、レースを引っ張る前半型だ。
「3年ぶりのベスト更新でした。4年前は4人のタイムが派遣標準記録に及ばなくてオリンピックに選ばれなかったので嬉しいです」
レース後、笑顔でこう話していた。4年前は、大学3年生。結果は49秒65で3位。悔しかっただろう。この経験をしている選手は強い。オリンピックに行けた選手を近くで見ていたのだから。
「必ず次は自分がいく」という誓いが心に刻まれただろう。
同じようなタイムのライバルの存在は心強い。
そして中村選手と塩浦選手の2人は、レース後に同じ言葉を発した。
「47秒台を目指す。個人の派遣を切りたかった」
同じ時期に、同じようなタイムの選手が2人いるのは心強いものだ。
ライバルがいるから強くなれる。
私の現役時代も、ライバルが多くいた世代だった。きつい練習中、見えないライバルを思い出して練習を乗り切ったことが懐かしい。オリンピック前は、海外の同種目の選手を思い浮かべてモチベーションを上げていた。
「世界に行くと物怖じしない」塩浦選手。
「日本の覚醒したホープ」中村選手。
日本人が自由形の短距離では戦えないとは、もう言わせない。