球道雑記BACK NUMBER
涌井秀章×大谷翔平、対決の構図。
最多勝投手同士の勝負を徹底検証!
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/03/30 17:00
涌井が開幕投手として投げるのはこれで7回目。現役投手として開幕戦5勝という最多記録を刻んだ。
“普通じゃできない技術”を持つに至った理由。
千葉ロッテのピッチングコーチを務める1人、小林雅英は現役時代の自身の投球スタイルと、その経験から次のように彼を称した。
「(真っ直ぐ系の微妙な出し・引きは)普通じゃできないと思いますね。自分(小林コーチ自身)がどうしてそれをできていたのか、自分でも分からないですけどね」
さらに小林はこう続けた。
「投げる感覚とか、離す瞬間の力の伝え方だとかだと思うんですけどね。自分が投げる瞬間に相手のバッターの動きや反応を見ながら……というところなんで」
相手バッターの反応を見る。よく聞く言葉だがそれがピッチャー側から見るといかなるものなんだろうか。
「僕(小林)が意識したのは、自分が投げているボールで、バッターに意識させなければいけないということでした。自分の投げたボールでバッターが思っていたような反応をしてくれなかったら、投げている意味がなくなってしまうし、ただ、投げているだけになってしまうので。
あとはそのときに自分がどういう感性を持って、マウンドに上がっているかだと思うんです。(マウンドから)バッターがどういうことを考えているのかなって感じ取って、そこでどうしたいのか。どのようなアウトを取りたいのかを逆算して投げる。
僕は真っ直ぐとシュートとスライダーしか持ち球がなかったけど、それは僕も相手のバッターも分かっていることなんでね。分かっていても打てないところに投げるとか、分かっているからこそ、あえてそこに投げるとかそういうところなんですよ。あとはそのときの閃きとか条件も重なってできることなんで……」
投手は、投げる瞬間に力感やコースを変えられるか?
涌井は以前こんなことを答えていた。昨年9月28日の西武プリンスドーム、西口文也の引退試合を前に、彼は西口との思い出話をこんな風に漏らしていた。
「感覚的なことなんですけど、自分がまだ新人だったときに、西口さんから投げる瞬間にバッターが打ってこないと分かったら思い切って、ど真ん中に投げればいいんだよと言ってくれたんです。たった、それだけのことでも自分はだいぶ救われましたし、投げていくうちに『ああこういうことなんだな』と分かったので……」(涌井)
投げる瞬間に力感やコースを変える、並の投手ではできないことだ。
事実、この話をある球団の、ローテーション投手に話したところ「自分はまだその感覚が分からない」と話している。それを己の体で理解しているとしたら……涌井はかなりのものだ。