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涌井秀章×大谷翔平、対決の構図。
最多勝投手同士の勝負を徹底検証!
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/03/30 17:00
涌井が開幕投手として投げるのはこれで7回目。現役投手として開幕戦5勝という最多記録を刻んだ。
149キロの直球を軸に、微妙な速度差で打者を翻弄。
特に有効的だったのは140キロ台のシュート、カットボールと力加減を抑えた140キロ台前半の直球だ。初回に投げた149キロの直球を相手打線の脳裏に焼き付けたことで、10キロ内の「出し・引き」が可能になった。
「(あの打席が大きかった?)まさにその通りだと思います。あそこで、あれだけの真っ直ぐを見せられたので、相手(北海道日本ハム)のベンチにも真っ直ぐが来ている印象を与えられたと思いますし、あの打席は、あの試合の中でも凄く大事な一打席だったんじゃないかと思います」
この日、涌井のボールを受けていたキャッチャーの吉田裕太は、中盤以降さらに緩急を交え、涌井を7回4安打無失点に導いた。
初回の中田に対する初球、涌井は140キロのカットボールから入った。これが微妙な奥行きを出して中田はこれを見逃した。そこで千葉ロッテバッテリーは見逃さなかった。
「涌井さんの真っ直ぐが来ていると相手チームに思わせることもできたので、その打席の印象をあとで使えたんだと思います」(吉田)
2回表、北海道日本ハム・近藤健介を三振に奪ったのは140キロ台のシュート気味の球だった。
「あれは直球がシュート回転したのではなく、シュートです」
キャッチャーの吉田は、あれが狙って投げたボールだと強調した。
3回表、西川遥輝を相手に1ボール2ストライクとあっさり追い込み、最後はおなじくシュートで三振を奪った。
一段上から相手をあざ笑うかのような投球だ。
昨季の最多勝でも満足しない涌井。
キャンプ中のブルペンで涌井はひたすら直球の精度を磨いてきた。
「真っ直ぐが走らないと変化球が活きてこない」
昨年、最多勝のタイトルを獲得しながら、今一つ自身に満足できなかった投球が、彼に飽くなき探求心を芽生えさせていた。
この日は、一番良かった直球を見せ球に使い、あえて力を抜いた変化球で打ち取るピッチング――2016年の涌井の可能性に昨年以上の期待を抱かずにいられない内容だった。