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プレミアで“大空翼”になった岡崎慎司。
2度目のオーバーヘッドは風邪のお陰?
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byYusuke Mimura
posted2016/03/17 10:30
岡崎のオーバーヘッドは、ドイツの新聞一面を独占した。ピッチをボールが左右に飛び交う間もスペースを探し続けていたことが報われた形だ。
「こういうときに点を獲ると思っていた」
実はこの日、岡崎は風邪をひいていたという。チームに報告しなくてもよい程度ではあったが、最高のコンディションだったとは言い切れない。でも、そんなときに彼は力を発揮する。
「風邪でメッチャ、しんどかったんですよ。でも、こういうときに点を獲ると思っていたので」
そう話す岡崎の言葉に偽りはない。
昨シーズンまで所属していたマインツでは2年間で27ゴールをあげたが、1試合で3得点に直接絡んだ試合となると、さすがに1回しかない。2ゴール、1アシストを記録した、2013年12月21日のハンブルガーSV戦だ。
実はあのときも、岡崎は風邪をひいていた。当時、こんなことを話していたのを覚えている。
「ちょっと身体が重いなというときに、逆に力がぬけて良いプレーが出来ることもあるんですよね」
確かに、一流の選手は、調子やコンディションの波が小さい。しかし、どんな選手でも、長いシーズンのすべての試合を最高の状態で戦えるはずがない。状態が良くない時にどれだけのパフォーマンスを見せられるのか。そこで選手の価値は大きく変動する。
状態が悪いときに、誰もが驚くようなゴールを決める。岡崎の底知れぬパワーが発揮されるのはそんなときなのかもしれない。
あのプレースタイルでも、「肉離れ」は一度もない。
そもそも、あれだけ激しいプレースタイルを売りにしているのに、岡崎は筋肉のトラブルをほとんど経験していない。2011年に日本からヨーロッパに活躍の場を移したが、怪我をしたのは、練習や試合での接触プレーにともなう打撲から派生したものばかり。ヨーロッパにわたってから、いわゆる『肉離れ』で試合を欠場したことはただの一度もないのだ。
今季もそうだ。
プレミアリーグはすでに30試合を終えたが、ベンチで90分間見守った試合が2つあるだけで、他の試合ではいつもピッチに立ってきた。
能力を限界まで引き出そうとすれば、怪我をするリスクは高まる。
「シンジはチームの一員で、いつもすごい働きをしてくれる。今夜の彼はさらにゴールを決めた。でも、シンジはファンタスティックな働きを、シーズンを通して見せてくれているんだ!」
試合後にラニエリ監督はそう言って岡崎をたたえたが、ヘトヘトになるまで走り回るスタイルは、身を削るように見える。しかし、彼の身体はそれに耐える。限界まで能力を引き出しても、引き出しても、決して壊れないところに彼の強さはある。