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村田諒太、遂に年内の世界戦を明言!
絶対王者を上回る速度で頂に立つ。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byAFLO
posted2016/02/02 10:30
圧力で完全に押し込んで危なげなく9勝目をあげた村田諒太。世界がようやく視野に入ってきた。
「今年中に世界戦」と会長が明言。
かくして迎えたのが上海のベガ戦だ。村田は前回の反省を踏まえ、変化した姿を見せた。スタートから攻撃的で、鋭いジャブから右ストレートにつなぎ、アルゼンチン人を圧倒した。
ベガは実力者とは言いがたいが、ラフなパンチを強振するのが売り。村田を食って「一発名を上げてやろう」と考えたとすれば、先制攻撃こそが有効だったはずだ。しかし村田の強い圧力を受け、ジリジリと下がりながらジャブを出す展開になった時点で、ベガの野望はあっけなく破れた。村田は強烈な右ストレートで2度のダウンを奪い、2ラウンドで試合を終わらせた。
村田の“吹っ切れた”と感じさせるパフォーマンスに価値はあったが、この試合で「さあ、世界だ」となるのかと言えば、話は別であろう。今回拳を交えたベガは中堅選手にすぎず、世界までの距離を測るものさしとしてはもの足りないからである。
それでも帝拳ジムの本田明彦会長は、上海に集まったメディアの前で「今年中に世界をやらせる」と明言した。しかもこの発言は試合前のもの。まずは1カ月の米国合宿でさまざまなタイプの実力者とスパーリングを積み、さらにレベルの高い選手と試合をして、今年の下旬には「さあ、世界だ」と言えるまでに持って行くというプランである。
はたして村田は今年中に世界を獲れるのか? そもそも村田の場合、初期の段階では2015年中に世界挑戦という青写真が描かれていた。それが昨夏に右肩の負傷でブランクを作ったこともあり、ビッグチャレンジは1年持ち越された。いわば猶予が与えられたと言えるが、世界基準から見れば、村田が短時間で世界の頂点にたどり着こうとしていることに変わりはない。
ミドル級は世界戦までの距離が軽量級とは段違い。
以前にも本稿で触れたが、世界的に層が厚く、日本人チャンピオンが過去1人しか出ていないミドル級は、軽量級のように10戦以下で世界の頂点に立てる世界ではない。たとえばアテネ五輪銀メダリストで、現在はWBAとIBFのベルトを保持しているゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)は、世界タイトルを獲得するまでに4年3カ月、19試合を要している。
現在ミドル級で頭一つ抜けている最強王者でさえ、これくらいのキャリアを積んだのだ。村田があと2試合して今年12月に世界挑戦するとすれば、デビューから3年4カ月、12戦目での世界挑戦となる。こうして比べてみてもミッションの過酷さがわかるだろう。