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ほぼ無風のF1ドライバー移籍市場。
唯一移籍するグロージャンの思いとは。 

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尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

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photograph byGetty Images

posted2015/12/30 11:00

ほぼ無風のF1ドライバー移籍市場。唯一移籍するグロージャンの思いとは。<Number Web> photograph by Getty Images

2015年シーズンで唯一、表彰台に上ったベルギーGPで、スタッフと喜びを分かち合うグロージャン。この光景はもう見られない。

チーム愛がゆえの苦渋の決断。

 しかし、チームの苦労はその後も続いた。その状況についに切れたのが、チームのエース格ドライバーであるグロージャンだった。フランスを代表する企業であるルノーに買収されて再スタートを切る2016年の「ルノー」は、フランス国籍を持つグロージャンにとって、人一倍、魅力あるチームになるはずだった。

 しかし、グロージャンはチーム残留というオファーを断る。裏を返せば、自らチームを去る決断を下させるほど、2015年のロータスのマネージメントは酷かった。

 愛するチームに別れを告げなければならないのは、グロージャンだけではない。

 グロージャンを9回、表彰台に上げた名エンジニアの小松礼雄も、苦渋の決断を下さなければならなかった。小松もまた、ルノーに買収されようとしていたロータスの経営陣の不誠実さに、我慢がならなかったひとりだった。

現場の苦労が経営陣に届かない……。

 ロータスの旧経営陣がいかに酷いかを知るエピソードがある。

 それは8月下旬のベルギーGPのことだ。このグランプリでロータスは、参戦の危機に直面していた。必死の思いで出場にこぎつけたチームスタッフは参戦を果たしただけでなく、その逆境をはね返してレースでは表彰台を獲得した。しかし、表彰台の下で喜ぶロータスのスタッフの中に、経営陣の姿はなかった。なぜなら、彼らはバカンス中だったからである。

 さらに日本GPでは、チームスタッフの休憩場所となるホスピタリティハウスのレンタル料を支払えずに、ついに締め出されるという屈辱も味わった。しかも驚くべきは、滞納していたのは2015年だけでなく、その前年からだったこと。見るに見かねたバーニー・エクレストンが、FOM(フォーミュラ・ワン・マネージメント)が使用する倉庫を貸し、ロータスのスタッフはその中でサンドイッチを立ち食いして、急場をしのいでいたほどだった。

「僕だって、チームに残りたかった。ルノーの新しいプロジェクトの一員になりたい気持ちをだれよりも強く持っていたのは、僕なんだから……」(グロージャン)

 しかし、グロージャンは9月末にハースへの移籍を決め、小松はシーズン終了後についに決断を下した。その小松が案じていたのが、自分を育ててくれたチームの将来だった。

 そのロータスの買収手続きが、正式に完了したと12月21日にルノーから発表された。このニュースをロータスのスタッフと同じくらい、グロージャンと小松も喜んでいることだろう。

 だが、その2人はもうこのチームには、いない。本当にチームを去らなければならなかったのは、ロータスの旧経営陣たちである。

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