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世界中でF1中継が消滅の危機に!?
フジテレビスタッフに漂った“哀愁”。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2015/12/20 10:40
2015年最後のレースとなったアブダビで、恒例の集合写真に収まったドライバーたち。来季は心躍るレースを見ることができるだろうか。
F1発祥の地・イギリスでも人気が凋落している。
じつはF1のテレビ中継を巡る状況が問題となっているのは、日本だけではない。
F1発祥の地であるイギリスでも、国営放送であるBBCが単独でのF1中継を断念。2012年からは「スカイ」と共同でイギリスでのF1中継の2018年までの権利を購入している。
その結果、イギリスでは現在、年間10戦を地上波でBBCが中継し、残るレースを含めた全戦をスカイがCSで有料放送している。
しかし、今回の日本におけるF1中継を巡る状況がこれまでと異なるのは、すでに2016年以降の日本でのF1中継の権利をFOMがフジテレビ以外と締結していることだ。その相手とは、「FOXスポーツ・アジア」である。FOXスポーツ・アジアはFOMと2016年以降の中国本土を除くアジア全域でのF1放映権を取得している。これにより、日本でのF1中継は、2016年に大きな節目を迎えることになる。
ただし、FOXスポーツ・アジアはFOMと包括契約を締結しているだけで、FOXスポーツ・アジアが中国以外のアジア諸国に独自に放映権を売買することは可能である。つまり、フジテレビがFOXスポーツ・アジアから日本におけるF1中継の権利を買って、再びF1中継を続けることは可能なのだ。
だが、フジテレビがFOXスポーツ・アジアからF1中継を買い取る意思があれば、そもそもFOMがFOXスポーツ・アジアと契約する前に、フジテレビがFOMと2016年以降の契約を結んでいたと思われ、フジテレビにその意思があるかどうかは不透明である。
そして、その状況を私たち以上に社内で感じているからこそ、アブダビGPで見かけたフジテレビのスタッフには、いつも違う哀愁が漂っていたのかもしれない。
ファン減少は、もはやF1界の構造上の問題。
日本でのF1中継が、なぜこのような事態に陥ったのか。フジテレビだけの責任ではないことは、イギリスに続いてフランスでも地上波が消滅していることが雄弁に物語っている。
チームに分配金を渡さなければならないFOMとしては、その柱である放映権料を引き上げることが最短の道である。しかし、それによってテレビ局がF1中継を手放さなければならない状況に陥り、全世界でテレビ中継を観戦するファンの数が減ってしまっては、本末転倒となることを忘れてはならない。
「小さな頃、テレビで見たアイルトン・セナの走りは、いまでも覚えている。セナは僕にとって憧れだった」
少年時代にテレビ観戦でセナの存在を知ったフェルナンド・アロンソ。その走りを2016年に日本のテレビ中継で見られなくなったら、それは日本のモータースポーツ界にとって、悲劇である。