フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
カナダGPは波乱のち、名演技続出。
チャンが優勝、羽生も6位から挽回。
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAFLO
posted2015/11/03 11:00
フリーで驚異的挽回を見せた羽生。歴代のSP最高得点記録は羽生、フリーの記録はチャンが持つ……名勝負はこれからも続く。
一夜明け、フリーは名演技続出の激戦に。
だが翌日のフリーは、うって変って名演技が続出した。
羽生は後半グループの1番滑走だった。リンクの中央に出て、きりっとした表情でぴたりとフリー陰陽師『SEIMEI』の最初のポーズをきめた。その日の朝の練習で何度も失敗していた4回転サルコウを、ぐっと踏みこたえて降りると、そこから力を得たように、トウループ、3回転フリップと次々と成功させていった。ステップシークエンスの後は、2度目の4回転コンビネーションで手をつくも耐えて、得意の3アクセルを2度降りた。ジャンプを成功させるたび、会場の歓声はどんどん大きくなっていった。
なんという強さだろうか。最後の3回転ルッツで転倒するも、圧巻としか言いようのない演技だった。
フリー186.29、総合259.54のスコアが出て、あとは残りの選手の演技待ちとなった。
だが全員がノーミスで滑ったとしても、羽生が出した以上の点を出せるのは、残っている選手の中ではおそらくパトリック・チャンだけであろうことは、みんなわかっていたはずだ。まだ息を切らせながらミックスゾーンに現れた羽生は、こう語った。
「(前日のSPを反省してみて)そんな調子悪くないなと思った。ルールのためにああいう点数にはなったけれど、自分の感覚が一番大事だと思ったので、いつも通りの気持ちで滑ろうと思いました。後半の4回転で手をついたけど耐えることができたので、自分の中では頑張ったほうだと思う。(終了して)これでやっと集中力を切らせることができます」とリラックスした笑顔を見せた。
チャンの演技は圧巻だった。
チャンのショパンメドレーが始まった。革命のエチュードの細かい音符に、チャンの流れるようなスケーティングが乗っていく。
出だしの4+3のトウループコンビネーション、彼の苦手なジャンプである3アクセルと、次々降りて行った。驚くほどのスピードがありながらも、動きのタイミングと音がぴたりと合っている。ピアノのメロディのうねりに彼の膨れ上がっていくようなスケーティングが、会場の空気を盛り上げていった。
ジャンプの一つ一つに勢いがあり、着氷が美しく流れる。彼が常々口にしていた、「これぞフィギュアスケートという滑りを見せたい」という演技はこのことか、と思わせてくれるほどの滑りだった。
予定していた2度目の4回転を3回転にしたが、流れが途切れることのない完成された作品だった。結果はフリー190.33という高いスコアが出て、総合271.14。この時点で、彼の優勝は決定したも同然だった。