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WEC第6戦 富士6時間耐久で、
最先端ハイブリッド技術に触れよう!
text by
大串信Makoto Ogushi
photograph byTOYOTA
posted2015/10/08 11:10
WECで年間王者となった名車TSO40HYBRIDの構造図。車体前後のモーター&発電システムとほぼ中央にある蓄電装置。
ガソリンエンジン自体の熱効率はわずか40%。
ひとくちで燃費と言っても、自動車の燃費を改善するには様々な方法がある。
ガソリンエンジン本体は改良された結果、現在ではその熱効率は40%に達しようとしている。一方、1997年に初代プリウスをTOYOTAが発売して以降、市販車市場では急激にハイブリッド車の普及が進んだ。自動車の燃費を飛躍的に向上させるハイブリッド技術の基本は、従来のエンジン以外の動力を搭載し組み合わせてガソリン消費量を低減する仕組みである。
多くの場合、エンジン以外の動力系統は蓄電装置とモーターで成り立っている。蓄電装置とモーターは、エンジンがこれまで「手数料」として浪費してきたエネルギーを回収し再利用するために働く。70%近いエネルギーをエンジンが捨ててしまったとしても、その浪費したエネルギーを回収して運動エネルギーに変換すれば、自動車全体として効率は向上し燃費が良くなるという計算だ。
捨てていたエネルギーをどう回収するか?
では、従来捨てていたエネルギーをいかに回収するか。これにもいくつか方法があるが、基本になるのはブレーキからの経路である。
ブレーキは、回転する車輪に対して強引に制動をかけ運動エネルギーを熱エネルギーに変換し、空中に放出することによって運動エネルギーを減少させる=自動車を減速・停止させる装置である。つまり自動車は減速時にも、せっかくエンジンが生み出した運動エネルギーを捨てていたのだ。
ハイブリッドシステムは、ブレーキが放出していた熱エネルギーを電気エネルギーに変換することで回収する。一般にモーターと呼ばれている装置は、電気を通せば動力を発生するが、逆に外部の動力で回転させると電気を発生する発電機でもある。したがって制動時、ブレーキの代わりにモーター/発電機を車輪につないで回してやれば、運動エネルギーは熱エネルギーではなく電気エネルギーに変換され、発電機を回す力の分、ブレーキ同様の制動がかかる。
回収された電気エネルギーは車載の蓄電装置に保存しておけば発進・加速時にモーターを駆動して運動エネルギーに変換しなおし、エンジンの駆動をアシストすることができる。制御次第では、エンジンを使うことなく自動車を走らせることさえ可能になる。こうしてこれまでは捨てていたエネルギーを回収し再利用することにより、ハイブリッドシステムは従来のエンジンが挑戦してきた熱効率の壁を乗り越え、エンジンのみでは実現できなかったレベルの燃費改善を成し遂げたのだ。