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あまりに遅いマクラーレン・ホンダに
元王者のモチベーションがピンチ!
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byAFLO
posted2015/10/04 10:40
今季がF1生活16年目のシーズンとなるバトン。現在のランキング18位は過去最低タイで、以前の18位はホンダで戦った2008年シーズンだった。
さらに劇的な引退を見せたマンセル。
1992年のイタリアGPで引退を発表したナイジェル・マンセルも同様である。
この年、マンセルは念願のタイトルを獲得し、ドライバーとして脂が乗り切っていた。にもかかわらず、チームが大幅の年俸ダウンを提示。プライドを傷つけられたマンセルは、熟考の末に単独で引退発表を決行した。会見の知らせを聞いたウイリアムズのスタッフが、会見を中止させようとマンセルに和解を求めるが、マンセルの意思は変わらなかった。
「私の力の及ばない理由により、今シーズン限りでのF1からの引退を決めた」
勝てる力はある。その自分から勝てるマシンを取り上げるのなら、この世界に未練はない。じつにマンセルらしい決断だった。
上位を争っていないとF1は楽しくない。
そして、バトンである。バトンは引退報道が出される前のシンガポールGPで、現在の心境と自らの今後について、次のように語っている。
「モータースポーツでマシンに乗っていて楽しいと感じる瞬間は、レースで上位を争っていて、何かを成し遂げられると感じたときだけなんだ。僕はフォーミュラマシンが好きで、ずっとシングルシーターのレースをしてきたけど、いくらF1でも後方で戦っていたら、F1マシンをドライブしているという喜びは得られない」
今年の日本GPは、その象徴ともいえるレースだったのではないだろうか。
一度も入賞圏内に入ることなく、後方集団の中でオーバーテイクを許し続けたバトンは、レース後、テレビ局のインタビューにこう答えた。
「今日の僕は戦うことが許されなかった。まるで刀を持たないサムライのようにね」
バトンは今年4月のロンドン・マラソンで2時間52分30秒で完走し、自己ベストを更新。肉体的には、まだ十分やれる。それでも、その肉体にマシンがついてこない。マシンの性能は勝敗の行方だけでなく、ドライバーの未来をも左右する重要な存在。バトンの引退騒動に、そのことをあらためて感じた。