詳説日本野球研究BACK NUMBER
山田哲人、川端慎吾、そしてパ勢。
数字で見る彼らの積極性と攻撃性。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byHideki Sugiyama
posted2015/10/01 10:30
ヤクルトの中では、ボールを「見る」タイプの山田哲人。CSでも彼のバットがチームの命運を握っている。
パに目を移すと、ソフトバンク打線は多彩。
ここで注目してほしいのは打数。川端が山田の倍近くファーストストライクを打っているのがわかる。履正社高時代の山田は、2ストライクを取られるまではストレート狙い、2ストライク後は緩急対応型とバッティングを変えていたが、今は1球ごとに球種を絞っているように見える。それが見逃しの多さにつながっているのだろう。
2人以外でファーストストライクを打った回数が多いのは、セ・リーグではマートン161、雄平159、パ・リーグでは浅村栄斗159、秋山翔吾142、柳田悠岐137とイメージ通りの面々が並ぶ。
ヤクルトが日本シリーズで対戦する可能性があるソフトバンクでは、柳田以外にも積極的に打っていく選手が多い。たとえば内川聖一、松田宣浩たちで、2人のファーストストライクを打った打数は146、松田宣浩122と多い。
もちろん、ソフトバンクも好球必打タイプだけではない。じっくりボールを見極める待球タイプもいる。その代表格が中村晃で、ファーストストライクを打った打数はわずか49。私が見た試合では、6月6日の巨人戦で20球中ストライクの見逃しが9球あった。見逃し率は何と45%。そして2ストライクを取られてからの打数は230にもなり、追い込まれると1割台まで打率が下がる選手が多い中で打率.252を誇る。
柳田、内川、松田たち好球必打の中に、中村が入ることによって生まれる絶妙のバリエーション。打線の“緩急”と言ってもいい。タイプの異なる選手を迎えるたびに攻め方を変える他球団のバッテリーは大変である。ソフトバンクの打線の強みはこのへんに隠されていそうだ。
両リーグの差は、死球にも現れる。
打者の攻撃的精神が好球必打なら、投手の攻撃的精神は死球の数に表れる。もちろん、わざと当てるわけではない。内角を厳しくえぐる組み立てが、結果的に死球の数を上下するのだ。
その死球の数がセとパとでは決定的に差がある。セの234個に対してパは322個。これはパ・リーグ投手陣の攻撃的精神がセ・リーグを上回っているということである。首位打者街道を快走中の柳田への死球はリーグ2位の14個で、他ではペーニャ16、浅村12、中島裕之10、森友哉、李大浩、レアード各9と続く。
セで死球を9個以上受けているのはバルディリスの12個だけで、三冠王+盗塁王の可能性が大きく報じられた山田への死球は5個。これはちょっと信じられない数字だ。
タイトル総なめは他の打者にとっても屈辱だが、打たれるバッテリーはさらに屈辱に感じなければならない。しかし、死球数を見る限り内角を厳しく突く配球は行われなかった。もし、ヤクルトとソフトバンクが日本シリーズで対戦したら、両球団の山田と柳田に対する攻め方に注目したい。そこに両リーグの差が見られると思うからだ。