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オリックス・東明大貴のルーツとは?
「超隠し玉」だった大学1年生の頃。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2015/09/25 10:30
プロ2年目にして二桁勝利を挙げた東明大貴。四球の少なさにも特徴がある。
組み立ては同じでも、フォークがぜんぜん違う。
プロに入ってストライクゾーンの違いに戸惑った。四球が怖くてコントロールばかり気にして、腕が振れなかった。そんな嘆きを聞いていた。
自分の持ち味は何か。腕の振り。それしかない。それで闘ってきたじゃないか。そのことに気づくのに1年かかった。
時間をかけて学んだことは忘れない。
よかったじゃないか。
渾身の腕の振りからの快速球は、140キロ前後でもインパクトの瞬間に打者のバットをはね返す。110キロに満たないカーブをアクセントに、スライダーとフォーク。
投球の組み立ては社会人の頃と変わらないが、フォークのバリエーションがぜんぜん違う。
しなやかな指。
細くて長くて、先へいくほど細くなっていく。そして、指と指の間が90度以上に柔らかく開く。そんな手の平も見せてもらっていた。
ホームベースの一塁側にはタテに落とし、三塁側にはシュートしながら沈める放射線状の球筋。そのフォークが速球以上に腕が振れているから、これが打者の見極めを狂わせる。
しかも、シュート回転の速球で右打者のふところを突き、同じ球道からフォークを沈める技術をいつの間にか身につけて、これにリーグのスラッガーたちが皆、手を焼いている。
「高校3年間、夏0勝のピッチャーですから」
「ボク、高校3年間、夏0勝のピッチャーですから」
そんな話を「!」を付けて語ってくれた社会人時代。
「ウッス、オッス」の野球部あいさつの似合わない“民間人”の匂い。就活で銀行の面接でも行ったら一発合格だろうな……と思わせる折り目正しさ。作ったところがなくて、人柄からにじみ出た自然な所作だったのを印象深く覚えている。
1イニングを終えて、ダグアウトに戻っていく東明大貴に捕手が何か語りかけている。
聞き入る目の透明感がアマチュアの頃とおんなじだ。
プロの一軍で働く身になれば、もっとすれたところがあってよいのかもしれないが、一人ぐらいアマチュアの匂いを残した“青くさいヤツ”がいてもいいんじゃないか。