岩渕健輔、ラグビーW杯と東京五輪のためにBACK NUMBER
「最初の10分間で勝利を確信した」
岩渕GMが分析、南ア戦の歴史的勝利。
text by
岩渕健輔Kensuke Iwabuchi
photograph byGetty Images
posted2015/09/22 11:00
エディー・ジョーンズの「Japan Way」には、原辰徳(野球)、眞鍋政義(バレー)、アルベルト・ザッケローニ(サッカー)らから吸収したノウハウも生きている。
試合のポイントは最初の10分間。
その点でポイントになったのは、試合開始直後の10分間の攻防でした。
試合開始直後、日本は南アフリカの波状攻撃に3回ほどさらされています。この場面でトライを許してしまえば、以降の展開はかなり違ったものになっていたでしょう。相手は日本を与し易い相手だと見て、完全に飲んでかかってくるようになります。逆に日本は精神的に苦しい立場に置かれますし、相手の体力を消耗させながら、最後に勝負をかけるというゲームプランがいきなり破綻してしまうことにもなります。
ところが日本の選手たちは、自陣のゴールライン際で幾度となく猛攻をしのいだだけでなく、そこからボールを奪ってターンオーバー(カウンター)を展開。読者の皆さんは驚かれるかもしれませんが、私はすでにこの時点で、「この試合は絶対にものにできるはずだ」と確信したのです。
事実、窮地をしのいだ日本は、最初のスクラムからペナルティキックのチャンスを得て、先制点を挙げることにも成功します。むろんその後は二転三転する展開になっていきますが、日本の選手たちは集中力を切らさずに相手に必死で食らいついていき、前半を10-12の状態で終えました。
この時点で、南アに勝てるという手応えはさらに揺るぎないものとなりました。何よりも選手たちの落ち着いた様子が、私にそう確信させたのです。私は各国の協会関係者と共に試合を見ていましたが、南アフリカの関係者が明らかに焦りの色を濃くしていたのをはっきり覚えています。
後半20分で、ついに攻勢に出た日本。
試合の流れは、後半も基本的には変わりませんでした。たしかに南アフリカは選手個々の能力に優っていますが、日本の選手たちはチームとして、自分たちがやるべきことをやりきっていきました。
たとえばゴールの前でスペースが少なくなった時には、モールでトライを狙う形になりますが、このような場面でもしっかり相手を押すことができていました。タックルも同様です。相手に突破された場合には、すぐに別の選手がカバーリングにいく。守備のラインが乱れた場合には、すぐに本来のポジションに戻ってタックルに入る。4年間、積み上げてきたものは崩れませんでした。
ひたむきなプレーは、後半20分以降の展開につながります。これまで日本代表が世界の強豪国と戦ってきた際には、後半20分で一気に突き放されるケースが度々ありました。ところが今回の試合では、逆に後半20分で日本が攻勢に出て、ついには土壇場で逆転のトライを決めます。このような展開は、かつてみられなかったものでした。