岩渕健輔、ラグビーW杯と東京五輪のためにBACK NUMBER
「最初の10分間で勝利を確信した」
岩渕GMが分析、南ア戦の歴史的勝利。
posted2015/09/22 11:00
text by
岩渕健輔Kensuke Iwabuchi
photograph by
Getty Images
こんにちは。日本ラグビー協会、代表GMの岩渕健輔です。
すでにご承知の通り、日本代表はW杯イングランド大会の初戦で、優勝候補の一角である南アフリカに34対32で勝利を収めました。選手の健闘もさりながら、この勝利はファンの皆さんのサポートがなければ、決して実現しなかったものです。まずはこの場をお借りして、皆さんに心から御礼を申し上げたいと思います。本当に有り難うございました。
今回の勝利は、個人的にも非常に感慨深いものがありました。ホイッスルが鳴った瞬間には、日本ラグビーを支えてくださったファンの方々、諸先輩方、そして4年前にGMになってから今日に至るまでの様々な出来事が、走馬灯のように思い出されました。かつての日本は、W杯で1勝しか挙げていませんでした。この不名誉な記録に終止符を打ち、「日本ラグビーの歴史を変える」ことは、私たちが掲げていた目標の一つでした。
今回の勝利は奇跡ではない。
しかし私自身の気持ちは、意外なほど落ち着いています。私たちは、この試合に勝つためだけに数週間、数カ月前から準備をしてきたわけではないからです。むしろ今回の試合結果は、あくまでも世界に勝てるチーム作りを目指していく上での1つのステップ、4年前からやってきた練習の積み重ねの結果に過ぎないとも言えます。
その意味で今回の勝利は、奇跡の勝利などでもありません。
ラグビー界の常識から見れば、日本の勝利は奇跡のように映るでしょう。しかし私たちが取り組んできたのは、奇跡の力などに頼らなくても勝てるようにする――当たり前のプレーを、当たり前のようにできるチームを作ることでした。
日本らしい戦いをするための最低限の実力とは?
どんなチームにとっても、最終的に試合に勝つためには、特別な武器を持っていることが不可欠になります。日本の場合、組織的な攻撃ラグビーで、相手を「型」に嵌めていけるかどうかが鍵となるのは、すでに前回のコラムで述べた通りです。
日本の代表の場合は、自分たちの戦い方を展開するためにこそ、まずはスクラムやモール・ラックといった力勝負の部分で、相手に対抗していけるようにする必要がありました。いかに緻密なゲームプランを組んでいても、パワーやスピードで圧倒されて主導権を握られれば、ゲームプランなど絵に描いた餅に終わってしまうためです(この部分、詳細は拙書『変えることが難しいことを変える。』[ベスト新書]で詳しく解説しました)。
しかし今回の南アフリカ戦では、従来の日本代表が最も苦手としていたパワー勝負においても、ある程度わたり合っていくことができました。戦術や選手個々のパフォーマンスなど、日本代表が勝利を飾った背景にはいくつもの要因がありますが、やはり相手に力負けしなかったのが最大の勝因になったのは間違いありません。