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メイウェザー、49戦目の“最終戦”。
勝敗よりも勝ち方、そして「その後」。
posted2015/09/03 10:40
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
AFLO
「もう戦うべき相手がいなくなった」
1955年9月のことである。
イタリア系米国人の世界ヘビー級王者ロッキー・マルシアノがライトヘビー級王者のアーチー・ムーアを倒して王座を守った後、彼は引退を表明した。
打ち合いで身を削り、肉体にキズを刻みながらも、キャリアに一つのキズもつけることはなかった。ジリジリと前に出ていっては、重いフックをこれでもかと見舞っていく。打たれようともひるまない。最後となったムーアとの一戦も2ラウンドに一度ダウンしながら、“倍返し以上”で9ラウンドKOに持ちこんでいる。
49戦43KO無敗。
きれいなキャリアに不釣合いなほど、不器用なファイトスタイルだった。
体格は決して大きくない。腕力だけを頼りに、怖れず果敢に向かっていく。名王者ジョー・ルイスを打ちのめし、ジョー・ウォルコットから王座を奪い取った。闘争本能をぶつける相手が視界に入ってこなくなったとき、冒頭の言葉を吐いた。人々は彼の引退を惜しみながらも、彼らしい幕引きに納得もした。映画「ロッキー」のモチーフになった男は、のちに飛行機事故によって45歳の若さでこの世を去っている。
48戦無敗のメイウェザーが、ロッキーに肩を並べるか。
ロッキーのラストマッチから60年が経ち、ようやく彼と肩を並べようとする男が現れた。そう、48戦無敗のスーパースターでWBC、WBA世界ウエルター級王者フロイド・メイウェザーである。マニー・パッキャオとの「世紀の一戦」を判定で制した“祭りのあと”となるのが、9月12日、MGMグランド・ガーデン・アリーナの舞台。
かねてからラストマッチであることを強調し、49連勝でマルシアノに並んで本当にリングを去るのかどうか。いまだ懐疑的に見るボクシングファンは少なくない。
一つ確かなのは、ほとんど誰もがメイウェザーの勝利を疑いのないものと確信しているということだ。