世界陸上PRESSBACK NUMBER
ボルトが自分ではなく人間と闘った。
最大のライバルに勝利したその心中。
posted2015/08/24 11:40
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
AFLO
これまでのボルトのレースで、もっとも感動したレースだったかもしれない。
ボルトが「勝負師」であることを証明したレースだったからだ。
2015年に入ってから、ボルトの調子は散々だった。今シーズンのベストタイムは7月にロンドンでマークした9秒87。
9秒87! ボルトにすれば、まったく大したことないタイムだ。本人がいちばんプレッシャーを感じていたのではないか。
そこから1カ月。北京に登場したボルトの姿を見て、またも不安が膨らんだ。
やけに体が大きい。筋肉? それとも、太ってる? フィットしていないのではないかという疑問が湧いてくるのは当然だった。
不調のボルトと、今季好調のライバル、ジャスティン・ガトリン。
予選のタイムは平凡、しかも終わってから玉のような汗をかいていた。おまけに準決勝では、スタート直後からコケそうになった。
おいおい、これがあのウサイン・ボルトなのか?
しかも、最大のライバルが現れた。アメリカのジャスティン・ガトリンだ。今季のランキングは断然トップ、好タイムを連発していていた。
おまけにこのふたりには緊張関係がある。
ガトリンは周囲の選手を威嚇することで有名で、かつてボルトも招集所で「ガン見」され、自分のレーンに唾を吐きかけられたこともある。
加えて、世間がふたりの対決を煽った。
ガトリンは過去に禁止薬物使用によって2度の出場停止処分を受けており、欧米のメディアは「クリーンなボルト対暗い過去を持つガトリン」という、さながらボクシングのヘビー級の対決のような構図を描いた。
準決勝までの内容を見る限り、ガトリンが本命なのは疑いようがなかった。