野球善哉BACK NUMBER
100周年の優勝投手・小笠原慎之介。
「今まで野球は楽しくなかったけど」
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2015/08/20 19:40
先発して161球を投げ抜き完投した小笠原と捕手の長倉。門馬監督も「(小笠原の本塁打は)私も驚きました」と手放しで喜びを表現していた。
「ピッチャー陣に関しては欲が出ていましたね」
2回戦の聖光学院戦、小笠原は9回途中からマウンドに登った。
ストレートの最速が151キロを記録するなど、圧巻のピッチングを披露したようには見えた。しかし指揮官の門馬敬治監督は、この時の小笠原のピッチングに警戒信号を発していた。
「ピッチャー陣に関しては欲が出ていましたね。難しいことではあるのですが、吉田(凌)に関しては三振を取りたがるところがありますし、小笠原は球速を出そうという欲が出る。そういうことを失くしていかないと、足をすくわれる」
指揮官の言わんとしていることは理解できた。
実際、その後の東海大相模の戦いぶりを見れば、それは明らかだった。
選手たちはそれぞれが「打ちたい欲」「自分が決めたい欲」をかみ殺し、バッターはセンター返しを心がけ、徹頭徹尾チームの勝利に貢献するプレーを続けていた。だからこそ、東海大相模は今大会でも無類の強さを発揮できたのだ。
この試合でも、初回にいきなり2点を先制し、3回にも2点を追加。4点リードの3回裏に3点を返されても、なお4回表には2点を奪い返すなど、選手が欲を持たずに謙虚に戦う姿勢が好結果を招いたことに間違いはなかった。門馬監督の方針があったからこそ、選手たちの高いポテンシャルが引き出されていたのだ。
ついに、本領を発揮した小笠原の豪速球!
しかし、あの151キロを記録して以降の小笠原には、どこか指揮官の指示以上に自分をセーブしているような雰囲気が感じられたのだ。
そのタガがこの日ついに、外れた。
試合後のヒーローインタビューで「ホームランを狙っていた」と証言した時には、正直、鳥肌が立った。
彼は乗り越えたのだと。
そして、優勝のシーン。最後の打者となった青木玲磨に投じた4球の球はすべて、彼の持ち味であるストレートだった。真っ向勝負を嫌う門馬監督からすれば、本当は許されないことではあるが、そのストレートは唸りをあげ、打者を圧倒していたのである。
144キロ、144キロ、148キロ、145キロ――と。