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サニブラウンは既に勝負の綾を知る。
東京五輪を21歳で迎えるという事実。
posted2015/08/21 10:15
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
AFLO
アスリートが負けて爽やかな笑顔を見せるためには、それなりの経験を必要とする。
勝つこともあれば、負けることもあるさ。
そんな人生の“常”を何度も噛み締めてきて、ようやく負けても笑顔でいられる。
インターハイの陸上100メートル決勝、16歳の高校2年生、サニブラウン・ハキーム(城西大城西高・東京)は2着に敗れてなお、素敵としか表現しようがない笑顔を見せた。
当日、和歌山市の紀三井寺陸上競技場は、サニブラウンをひと目見ようという熱気にあふれていた。通路で立ち見を決め込む人がいて、ホームストレッチが見づらいほどだった。
準決勝ではラストを流した。それでも10秒40。サニブラウンには余裕が感じられた。
しかし決勝では、3年生の意地が爆発する。
昨年のインターハイの100メートル王者、大嶋健太(東京高・東京)が素晴らしいスタートダッシュを見せ、サニブラウンからリードを奪う。
それでも60メートル付近からサニブラウンがぐんぐん差を縮め、フィニッシュラインでほぼ並んだ。
大嶋、10秒29。
サニブラウン、10秒30。
わずか0秒01差で大嶋が連覇を達成した。サニブラウンを倒しての快挙。大嶋はインタビューで涙ぐんだ。
それにしても、濃密な10秒間だった。
それにしても、濃密な10秒間だった。そこにはドラマがあり、サニブラウンは、負けてなお笑顔を浮かべた。
そこから意味を読み取ろうとするなら、「やられたな」という素直な感情があった気がする。16歳にして、勝負の綾を知っているかのような表情は、なかなかいいものだった。
今回の世界陸上で、サニブラウンは史上最年少で日本の代表に選ばれた。日本陸連によると、これまで高校生で出場したのは12人、サニブラウンの16歳5カ月での出場は史上最年少にあたる。
タイミングもよかった。7月にコロンビアのカリで行われた世界ユース選手権では、100メートルで10秒28、200メートルでは20秒34のタイムをマークして二冠を達成。200mの参加標準記録を破っていた。