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4度の昇格、そして4度目のマイナー。
川崎宗則は「味方の士気を高める男」。
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byGetty Images
posted2015/08/15 11:00
8月7日、ニューヨークでのヤンキース戦で9回無死一塁から代走で出場。二塁の守備では併殺をさばき、チームの6連勝に貢献した。
「昨日の守り、見てた? 日本人じゃないみたいだよね」
では、彼はいったい何が楽しくて、マイナーリーグで野球しているのか。
「昨日の守り、見てた? 七回の先頭打者の三遊間の。もう日本人じゃないみたいだよね。去年の夏ぐらいから、ああいうプレーができるようになったの」
たとえば三遊間の打球を逆シングルで捕る。勢いがついているので体は三塁方向に流れていく。一塁へ送球するには脚を踏ん張って体勢を整えなければならない、と思う。ところが川崎は体の勢いを止めず、そのまま流れるままに動いて一塁へ送球してみせた。タイミングはギリギリのアウトだった。
「日本だったら、そういうプレーでエラーでもしたら『大事にいかんかい!』って怒られる。でも、こっちだとそれが当たり前。いちいち踏ん張って投げてたら間に合わないから。そもそも硬い米国の地面では両膝に過大な負担がかかるし、そういう意味でもあれは、こっちでは自然なプレーなんだ」
「俺って情に流されやすいタイプだし」
川崎はいつも、そういうことを考えながら練習をしている。
「こっちの選手の守備って、日本人からしたら雑に見えるかも知れないんだけど、こういう環境の中ではとても理に適っていると思う。日本でテレビ見ているだけでは分からなかったけど、自分で実際にやってみると、ああそうなのか、横からの方が投げ易いなとか、閃くことが多いんだよね」
川崎の練習を見ていると、飛んだり跳ねたりで躍動感がある。それはまるでファインプレーの練習でもしているかのようで、その表情は子供のように無邪気だ。彼のことを古くから知る人は「ムネは元々、そういう選手だよ」と言う。
だが彼は日本で、そういう自分を失っていたのではないかと思う。年齢を重ね、チームリーダーとなって責任感が増し、チーム内や球界での存在感が大きくなればなるほど、彼は“野球少年”としての自分を失ったのではあるまいか。
だからこそ「日本に帰ってきたら、まだまだ一軍でレギュラーとして活躍できるのに」という声は一顧だにしないのかも知れない。球界の「ご意見番」と呼ばれる人が、川崎の日本球界復帰を促す発言を何度も繰り返しているのは有名な話だが、少なくとも現状では価値観が違いすぎるので相互理解はなかなか訪れないだろう。そもそも、そういう“外野”の声は、川崎の耳に届いているのだろうか。
「そんなの、聞かないようにしてるもん」
と川崎。冗談かと思ったが、彼はクスリとも笑っていなかった。
「俺って情に流されやすいタイプだし、いろいろ言われたら、気持ちが揺らぐかも知れないし」