濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
日本人女子格闘家がアメリカで戴冠!
世界で戦う浜崎朱加の開拓者精神。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2015/07/25 10:40
Invictaアトム級世界チャンピオンのベルトと共に。優勝当夜、「試合勝てました! 日本からたくさんの応援本当にありがとうございました!」とツイートした浜崎。
今後の課題はレスリングの技術への対応力。
浜崎が柔道技を使ったのは、単に“得意だから”ということではなかったはずだ。1Rにタックルへのカウンターでフロントチョークを極められかけるピンチがあり、そこから(本人は無意識だったようだが)切り替えたのである。柔道の組み手なら、相手に首を取られるリスクが少ない。
この咄嗟の対応力が、浜崎の大きな強みであり、師匠の藤井惠が「柔道をやっていたから総合でも強いというだけではないんです」と言う部分なのだろう。
グラウンドで相手を“削る”パウンドの手数が少ないという反省点は残った。「私はレスラー(レスリング選手)との対戦経験が少ないので。これからアメリカ人のレスラーと闘う時に、テイクダウンで負けないことが大事ですよね」という未知の課題もある。とはいえ、それを“伸びしろ”と考えることもできるだろう。
女子格闘技の未来を切り拓く先駆者に。
タイトルマッチのため、会場に入ってからドーピングチェックの尿検査を求められ「トイレにこもって水を飲みまくったんですよ。だからお腹タプタプで試合してたんです」と苦笑した浜崎。メインイベントに出場したクリス・サイボーグのファイトマネーが10万ドルだと知ると「夢がありますねぇ」と目を丸くしていた。
だが、彼女もサイボーグと同じ『インヴィクタFC王者』なのだ。防衛を重ね、アメリカのファンに評価されるようになれば、日本人格闘家としてトップクラスの“高給取り”になる可能性もある。少なくとも、そういう夢を持つことができる場所に立っているのは間違いない。
これまで、女子格闘技は「強くなっても目指す場所、“上”のステージがない」と言われてきた。しかし今は、それがある。浜崎は“アメリカで勝つ”という目標を身をもって示してきた先駆者の一人だ。そして今回の戴冠で、日本人でも海外の強豪に勝てることが証明された。そのことが他の選手に与える影響は計り知れない。
「ラスベガス、なんかギラギラしてましたね。みんなでアメリカで闘っていきたいです。日本にも強い選手はたくさんいますから」(浜崎)
もはや女子MMAは“異色のジャンル”ではなくなった。女子格闘技を語る際の常套句「なぜ闘うのか」など愚問でしかない。ここは世界につながる、夢のある場所なのだ。