モーターサイクル・レース・ダイアリーズBACK NUMBER
偉大な王者・ロッシが編み出した
“接触”という名の奇想天外な戦術。
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2015/07/04 10:40
接触直後、グラベルに飛び出したロッシは難なくコース復帰し、今季3勝目を挙げて ランクトップを堅持した。
アクシデントとして不問にはなったが……。
しかし、パルクフェルメでマルケスが「今日はいいレースが出来た。レースの結果はどうなるかわからないけどね」と語った通り、表彰式の後、審査委員会は両選手を呼んで事情聴取を行なった。
そして、あらゆる角度からのビデオをチェックしたという審査委員会は、「ロッシがわずかに先行していた。コーナーで両選手が接触している」と判定し、両者のコースアウトはレーシングアクシデントとして不問となった。
この決定に対して、マルケスが所属するホンダ陣営は抗議の準備をしていた。
だが、コースをはみ出したことを指摘されたマルケスが、ホンダに対して「プロテストしなくてもいい」と告げ、レースは決着することになった。
「マルケスがイン側に見えたが、もうコーナーリングしていたし避けられなかった」
ロッシは危険回避のコースアウトだったことを強調するが、その走りと言葉はシケインのブレーキング競争が想定内だったことを感じさせる。
一方のマルケスは結果的に裁定を受け入れたが、当初は自身の勝利を確信していた。
「レースウイークに入ってシケインのブレーキングの練習をしていたし完璧だった。完全に自分のポジションだったし、バレンティーノがぶつけてきた。(自分はシケインを通過しているし)レースのモラルからも優勝したのは自分だと思う」
マルケスは「またひとつ勉強になった」と皮肉を。
わずかにコースからはみ出してしまったが、シケインを通過しようと頑張ったマルケスにとっては、ロッシがとった一連の行動は想定外だったに違いない。
ロッシの走法に対して「本当にそれでいいのか?」と思った人は多く、接触したらシケインを全力で駆け抜けてもいいんだと思った選手も多い。
いずれにしても、これがひとつの前例となったことは間違いなく、マルケスは「またひとつ勉強になった」とロッシの新しい戦法を皮肉っていた。
ロッシはオランダGPで9回目の優勝となった。
グラベルを駆け抜け、真っ先にチェッカーを受けたロッシは、ウイリーでチェッカーを受け、芝生で寝転んで喜びを爆発させた。そして、パルクフェルメでの自信満々のコメントと振る舞い。