プロ野球亭日乗BACK NUMBER
巨人・高木勇人に黒星が続く理由は?
「打たれる怖さ」が奪った思い切り。
posted2015/06/26 11:00
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph by
NIKKAN SPORTS
巨人の原辰徳監督が現役時代に背筋が凍る思いをしたのは、会心の一撃を放ったあとだったという。
1989年の近鉄と激突した日本シリーズ。巨人がいきなり3連敗しながら、4連勝で逆転日本一に輝いた年のことである。
第1戦で「4番」を任された原は、しかしことごとくチャンスで凡退を繰り返して、3連敗した時点で10打数無安打。まったくいいところがなく、当時の藤田元司監督は打順を「7番」まで下げている。第4戦は5-0で一矢を報いたが、「7番・左翼」で先発した原は、依然としてノーヒットだった。
そうして迎えた第5戦。近鉄の先発が左腕・阿波野秀幸ということもあり「5番」で先発。迎えた7回2死一、三塁だった。
ここで近鉄の仰木彬監督は4番のウォーレン・クロマティ外野手を敬遠して、原との勝負を指示した。この試合も第1打席は空振り三振、第2打席も二塁へのフライに倒れて、連続打席無安打は18打席まで伸びていた。いわば「水に落ちた犬を最後まで打つ」ために、知将は原との勝負を選択したのである。
満塁本塁打を打ってベンチに座った時に、恐怖を感じた。
だが、この逆境で原は打った。
マウンドの吉井理人投手のストレートを左中間スタンドに運ぶ満塁本塁打。大歓声の中、3つのベースを踏んでホームに戻ると、ベンチ前で藤田監督とがっちり握手を交わしナインの祝福を受けた。
そうしてヘルメットを脱いで、ベンチに座ったときだった。
「本当に背中を冷たいものが走ったんだ。もし、凡打していたら自分はどうなっていたんだろう……。そう思った瞬間に底なしの恐怖を感じて、背筋が凍る思いをしたのを一番、覚えている」