プロ野球亭日乗BACK NUMBER
巨人・高木勇人に黒星が続く理由は?
「打たれる怖さ」が奪った思い切り。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2015/06/26 11:00
防御率は2点台をキープしているものの、白星から見放されている高木勇人。6勝は菅野智之と並んで巨人の勝ち頭であり、シーズン後半へ向けて復活が期待される。
原監督「勝負事というのは、負けて得るものがある」
原監督は次のように語る。
「野球というか、勝負事というのは負けて初めて得るものがある。だから敗れることを怖がっちゃいけないんだ。大事なのは自分のいいものをちゃんと出し切ること。バッターならまず自分のいいスイングをする。バットを振って初めて何かが起こるんだし、そこでヒットを打つためには、きちっとしたスイングをすること。投手だって同じなんだ」
ゆっくりとしたモーションから、後ろが小さめでタイミングが取りにくいフォームも高木の武器である。そのフォームからカットボールとスライダーの中間の曲がりという独特な軌道を描く“高木ボール”を武器に、力のある真っ直ぐやシュート、スライダーと変化球も多彩だ。
十分にプロでも通用する力を持っている。
打たれることへの恐怖が、高木の良さを奪っている。
自分のベストのボールを投げることだけだった開幕直後から、そのベストと思ったボールを打たれることで、相手を考えるようになった。それはもちろん成長へのステップなのだが、あまりに相手を考えすぎるようになって、それが自壊の原因にもなっている。打たれること、負けることへの恐怖が高木の良さを奪ってしまっているのである。
「あの打席、僕が考えていたことは、とにかくバットを振ってやろうということだった」
'89年の日本シリーズの本塁打を原監督はこう振り返る。
「スイング・ファースト。もう相手投手のことも、配球もなかった。とにかく自分のスイングをすることだけ。あそこで結果を考えたら、自分のスイングなんてできなくなる。だから逆に、結果もついてきたんだと思う」
そうしてベンチに座って初めて失敗した時のことを思って恐怖した。
もちろんまだまだ磨かなければならない技術もある。そうしてもっと制球力が磨かれれば、四球から崩れることもなくなるだろう。それは練習や地道な基礎体力の強化でしかできない。一度、マウンドに上がったら、自分を信じて腕を振るしかない。恐怖に打ち勝つには、その原点しかないと原監督は言うのだ。
そうしてその怖さを乗り越えた先にしか、高木のプロでの成功はないということである。