F1ピットストップBACK NUMBER
チーム内で王者を争うがゆえの内紛。
ハミルトンがロズベルグに掛けた策。
posted2015/04/17 10:40
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Getty Images
2人の戦いは予選直後から始まっていた。2人とはメルセデスAMGのドライバー、ルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルグである。
メルセデスAMGは通常、予選上位3人によって行なわれるFIAの記者会見とは別に、独自に自らのモーターホーム(モーターホームがないヨーロッパラウンド以外ではチームハウス)で、2人のドライバーの記者会見を開く。
フロントロウを独占した中国GPでも、それは同様だった。
ただし、この記者会見は昨年から個別に行なわれるようになった。
それまでは2人が同じテーブルに並んでいたのだが、タイトル争いがチームメイト間で展開されることに配慮したチーム側の判断だった。
4月11日、先に会見を行なったのはロズベルグだった。3戦連続でチームメートの後塵を拝したとはいえ、0.042秒差の予選2位。ロズベルグの顔にはレースに向けて自信があふれていた。
「開幕戦で負けたのは、タイヤのデグラデーション(タレ)が小さかったから。でも、今回はメルボルンのときよりデグラデーションが大きいので、レースは面白い展開になるだろう。もちろん、タイヤのマネージメントには自信がある」
と、そのとき、会見場の隅の方から中央に向かって近づく男がいた。ハミルトンである。
ハミルトンは会見場の脇にある飲み物が保管されているテーブルから何かを取り出していたが、同時にロズベルグの発言にも耳を傾けていた。
ハミルトンはわかっていたのである。チームメイトのロズベルグがタイヤ戦略を利用して、逆転勝利を狙っているということを。
レースペースをあえて遅くしたハミルトン。
そこで、ハミルトンはロズベルグの戦略を機能させない作戦を立てる。
ポールポジションからスタートしてトップに立った後は、レースペースをあえて遅くし、タイヤを労わるという戦略だ。もちろん、ただ単純に遅く走れば、後ろを走るロズベルグにオーバーテイクを許してしまう。
だからハミルトンは、オーバーテイクポイントとなる2本のストレートの直前で後続とのギャップを築きつつ、オーバーテイクが事実上不可能なコーナーではペースを落とし、タイヤを労わる作戦に出たのである。